アバルトが生み出した「フィアット124スパイダー」をシチリア島公道レースでテスト

トランクリッド、ハードトップ、ボンネットは、軽量化のためすべて薄いグラスファイバー製。シチリアのごつごつとした山並みがタルガの典型的な風景だ。(Photography:Olgun Kordal)



ピッコロ・マドニエで実力を堪能する
翌朝もエアアーチをくぐって正式にスタート。青く輝くイオニア海を右手に見ながら、海岸沿いに北上する。途中、コースが何度か内陸へそれたのは、レギュラリティーテストを組み込もうという主催者の意図だ。私たちがトップ争いに加わることはまずあり得ないので、レギュラリティーテストは無視することに決めていた。やがてコースはいったん海岸沿いに戻ってから、いよいよ内陸の山岳地帯へと突入していった。

"比較的"人口が密集する海岸沿いから、わずか数キロメートル内陸に入っただけで、急に21世紀が遠のき始める。きれいに舗装された道路から目を離した途端に、現代なのか、それとも中世なのか、あるいはローマ時代なのか分からなくなるのだ。道路標識には、カルタヴトゥーロ、ロッカパルンバ、カステッラーナ・シークラと、舌が絡まりそうな名前の村が続く。どちらを向いても、緑に覆われたごつごつとした山並みが雲の垂れ込めた広い空の下に延々と連なっている。

いよいよ私が運転する番がきた。道端に停止して交代する。快適なレカロのシートに腰を下ろしてエンジンをかけると、即座に再始動した。実にいいエンジンだ。ノーズを道路に向けようとステアリングを切ると、心許ないほど軽い。本格的に走り始めたらまったくフィードバックしてこないのではないかと不安になる。

試しにブレーキペダルを踏んでみたところ、長く踏み込まないと反応しない(メカニックのスチュアートは、マスターシリンダーの傷を疑っている)。しかし、制動はしっかりしており、バランスよく利く。ブレーキへの不安が消えると自信が増し、車に鞭打つことができるようになった。するとアバルトは急に生き生きと走り始めた。

のんびりした速度では不安になるほど軽かったステアリングが、タイトな連続コーナーで完璧な重みになった。しかし、腕が疲れるほどではない。124スパイダーは、当時のコンバーティブルとしては高い剛性を誇った。これなら、あれほど優秀なラリーウェポンになり得たのも納得できる。バランスが見事に取れており、反応が穏やかで、連続するコーナーを滑らかに抜けていく。また、リアエンドが流れそうになっても、小ぶりのステアリングで簡単に抑え込める。唯一気になったのは、リアのサスペンションが柔らかすぎることだ。急激に圧縮されると、リアタイヤがグラスファイバー製のリップをこすってガリガリと大きな音を立てる。だが、幸いリップを傷めるほどではないようだ。

エンジンの柔軟性にも舌を巻いた。高回転域で力を発揮するエンジンだが、高めのギアでも2000rpmからリニアに吹け上がり、レッドラインの6200rpmまで躊躇なく上がっていく。そのサウンドはエキゾチックというより、"仕事一筋"といった印象だ。4気筒らしいシンプルで小気味のよい轟音からは、優れた技術が感じ取れる。無駄に手の込んだものではない。要するに、ラリーカーに求められる要素が揃ったエンジンなのである。

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curatorsLabo.) Transcreation:Kazuhiko ITO(Mobi-curatorsLabo.) 原文翻訳:木下恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:Mark Dixon Photography:Olgun Kordal

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