アバルトが生み出した「フィアット124スパイダー」をシチリア島公道レースでテスト

トランクリッド、ハードトップ、ボンネットは、軽量化のためすべて薄いグラスファイバー製。シチリアのごつごつとした山並みがタルガの典型的な風景だ。(Photography:Olgun Kordal)



金曜と土曜は、入り組んだ山道と、丘の上に点在する村々、ほかの参加者と顔を合わせる海辺のチェックポイントが、万華鏡のように入れ替わりながら慌ただしく過ぎていった。1日の終わりには、アウトストラーダをクルーズしてパレルモへ戻る。タルガ・フローリオ・クラシックは、走行距離は長いものの、ミッレミリアよりはるかにリラックスしたイベントであることが分かった。運営は同じようにしっかりしているが、よりおおらかな雰囲気なのだ。その上、一日の行程が適度な時刻に終了する。また、コースはヨーロッパ本土と変わらない質で走り甲斐があり、かつ交通量が少ない。人気があるのも当然だ。

スタートしたときにはお互いをあまり知らなかったケニーと私は、車内で長い時間を共にするうちに固い絆で結ばれていった。国ではめったにドライビングする時間のないケニーが、彼のアバルトで徐々にリズムをつかんでいく様は、見ていてうれしくなる光景だった。そうかと思うとドライビングの合間には、数百万ドルもする美術品の取引を電話で交渉していた。また、パレルモのホテルで部屋のバルコニーに出たら、鍵がかかってボクサーパンツ姿で締め出された話もしてくれた(この一件は、『Artnet』というウェブサイトの連載コラムでケニー自ら暴露している)。

パレルモを散策
帰国のフライトが限られているため、タルガを早めに切り上げなければならないことはスタート前から分かっていた。また、日曜日はケニーの車を追加撮影することに決まったので、私は失礼して、ひとりでパレルモを散策することにした。

パルクフェルメとなっているパレルモ大学は、港から数マイルほどのところにある。そこから市街地の裏道を歩いていくと、走る車の窓からは分からない、この街の素顔が見えてきた。街外れにはスラムに近い地区もあった。そこには、北アフリカから地中海を渡ってやって来た移民が暮らす。崩れかけた建物が並ぶ狭い通りに、洗濯物を干すロープが何本も渡されている。これが陰気な光景ではなくロマンチックなものに映るのは、ひとえに明るい日差しがあるお陰だ。ところどころに点在する空き地は、第二次世界大戦中に爆撃を受けて以来、開発されずにそのまま残っているかのようだった。

海岸に近づくと、活気あふれる市場に出た。中でも魚市場はパレルモの名所で、イカやイワシのほか、人間の胴体ほどもあるマグロを買うこともできる。市場のにぎわいは、昨日タルガで通り過ぎた村々の閑散とした雰囲気とくっきりとした対照を成していた。

大きな骨董市もあったが、古い自動車に関する品はがっかりするほど少なく、せいぜいフィアット500のものくらいだった。ただ、ボロボロの照明器具や色褪せた写真、壊れたオモチャなどに混じって、ここでもシチリアの波乱の歴史を物語る品々を見つけた。こっちの店にはムッソリーニの写真をあしらった灰皿が、あっちにはその演説を記した戦前の冊子が…といった具合だ。

大陸と大陸を結ぶ重要な飛び石だったこの島では、過去が身近なところに潜んでいる。それ故に興味も尽きない。見つけた例のジェリ缶はどうしたかというと、持ち帰らずに置いてきた。場所は正確に分かっているから、来年のタルガで回収できる。一緒に出てくれる人はいるだろうか。

1972年アバルト 124スパイダー
エンジン:1755cc、4気筒、DOHC、ウェバー製44 IDF 20キャブレター×2基
最高出力:128bhp/6200rpm 最大トルク:16kgm/5200rpm
変速機:前進5段MT、後輪駆動 ステアリング:ウォーム&ローラー
サスペンション(前):ダブルウィッシュボーン、コイルスプリング、
テレスコピック・ダンパー、アングル・タイロッド、アンチロールバー
サスペンション(後):ロワーウィッシュボーン、トレーリングアーム、
コイルスプリング、テレスコピック・ダンパー、アンチロールバー
ブレーキ:4輪ディスク 車重:850kg(推定)
最高速度:190km/h0-100km/h加速:約7.5秒

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curatorsLabo.) Transcreation:Kazuhiko ITO(Mobi-curatorsLabo.) 原文翻訳:木下恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:Mark Dixon Photography:Olgun Kordal

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