マグネシウム合金磨き出しのボディを持つ幻の車!光り輝くブガッティ

Photography: Matthew Howell

1935年、ブガッティは翌年のル・マン用として、マグネシウム合金製のスペシャルボディを架装した"エレクトロン・トルペード・コンペティション"を発表した。だが、このモデルはル・マンに参加することなく忽然と姿を消した。そしてデビューから70有余年を経て、あるブガッティ・エンスージアストの手によって幻のル・マン・カーが蘇ったのだ。

磨き出しのボディを持つこのブガッティには、誰しも度肝を抜かれる。オーナーのジム・ハルでさえも、レストア完成後に初めて対面したときにはたいそう驚いたという。ジム・ハルはブガッティの聖地であるプレスコットのヒルクイムコースを走るという長年の夢を叶えるために、この車をカリフォルニア州マリブからイギリスへと運んできた。



プレスコットヒルに向かう前に、カドウェルパークでシェイクダウンを行い、その後、スコットランドのハイランド地方をブガッティで巡るという予定を立てていた。

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ジムはこの車を1981年からずっと所有していたが、今まで1度も乗ったことはなかった。その理由はといえば、彼が持っていたのは、バラバラになった“パーツの山”だったからである。

「この時を10年間も待ち続けていました。32年間もオーナーでしたが、今まで走ったのは、たった1時間だけです」とジムは準備をしながら笑顔で話す。喜色満面の彼はこれからカドウェルパーク・サーキットで足慣らしをする。

光り輝くブガッティは、思っていた以上に大きく堂々としていた。穏やかなリンカーンシャーの太陽を浴びて、ボディの隅々まで光り輝き、日差しの強いマリブでは目も眩むばかりに違いない。ボディを磨き出しにしたのは、ジムが派手好きなわけではなく、1935年のショーカーを正確に再現したからに他ならない。

1935年10月にパリ・サロンでは、ジャン・ブガッティが手掛けた2台のタイプ57Sプロトタイプが発表された。1台は、クーペ・アトランティークの前身にあたる"アエロリットゥ・エレクトロン・クーペ"。もう1台が"トルペード・コンペティション"で、これはル・マンの"スポーツカー"部門のレギュレーションを満たすよう設計されたレーシングモデルだ。どちらも"エレクトロン" と呼ばれる軽量なマグネシウム合金製ボディだと謳っていた。

残念ながらこれら2台ともオリジナルは現存していない。"アエロリットゥ" は解体され、そのパーツの一部が4台の生産型クーペ・アトランティークで使われたようだ。近年になって"アエロリットゥ"のスタイリングを復刻したレプリカが製作されている。



トルペードは当初から1936年のル・マンに出場する予定で準備が進められた。この時期、スポーツカー部門のレギュレーションでは、リアシート、有効なフェンダー、スペアタイヤ、そしてフロントウィンドーガラスの装着が義務づけられており、このトルペードにも、開閉式パネルの下に小さなリアシートが存在していた。

だが、この車がレースに出場することはなかった。1936年のル・マン24時間レースは激しいストライキで中止されてしまったからだ。ジャン・ブガッティは活躍の場を失ったル・マン・カーからフェンダーとスペアタイヤをはずし、タイプ59用のタイヤとV字型ラジエーターを取り付けて、モンレリーのコースに持ち込んだ。

そこで、ノンスーパーチャージャーの速度記録を更新に挑み、129mph(207.6km/h)を達成している。
見事な記録には違いないがブガッ
ティのT57G"タンク"なら、高価なマグネシウムボディを持たずとも136mp(218.9km/h)を出していた。

つまりトルペードの存在価値はないに等しかったことから、その後に解体されて、パーツはブガッティの工場の片隅で惰眠を貪ることになった。1939年8月、父エットーレの後継者と目されていたジャン・ブガッティが、ファクトリーからほど近い公道上で、"タンク"をテスト中に事故に巻き込まれ命を落とした。第二次世界大戦中にドイツ軍が工場を接収すると、残されていた"価値のありそうなもの"はすべてを奪い去っていった。トルペードのボディワークもその略奪物の中に含まれていたようで、この時期に失われてしまった。

自動車生産から撤退していたモールスハイムのファクトリーは、1960年代のある時期に不要となった古いパーツを整理したが、その多くはドイツのブガッティコレクターで、ブガッティについての著作もあるウーベ・フッケの手に渡った。

編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation: Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation: Megumi KINOSHITA Words: David Lillywhite 

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