マグネシウム合金磨き出しのボディを持つ幻の車!光り輝くブガッティ

Photography: Matthew Howell



ジムは、1970年代以降、一風変わった車を熱心に蒐集してきた。1979年に手に入れた最初のブガッティは、"Cork:コーク"とニックネームされたタイプ59/50Bで、タイプ57シャシーを短縮して製作したシングルシーターだった。そうした人と違った趣向を持つジムは、あるとき、世界的なヒストリックレーシングカーのスペシャリストとして知られる、英国のクロスウェイト・アンド・ガーディナー社を訪ね、タイプ59の2座ボディを製作できないかと相談した。すると、クロスウェイトはこの注文を受ける代わりに、モナコ在住のウーベ・フッケが彼の望みにぴったりの車を所有していると教え、ウーベを紹介してくれた。

この朗報を受けたジムは、1981年にモナコにフッケを訪ねた。「とても控えめな人だった」とジムは振り返る。「そこへ、私のようなクレイジーな男がカリフォルニアからやってきたんだ。彼は自分が所有する四輪駆動のブガッティ・タイプ53をジョン・ラムが撮影し、記事を書いてくれたと話すので、私が『ジョン・ラムとは知り合いです。私のドラエ(Delahaye)について記事を書いてくれた』と話しました。するとウーベは『待てよ。君のことは知っている。建築家だろう。君の車の記事は妻がスクラップしてある』と言うのですから、これには驚きました」

「この会話から、彼の私への警戒感が消え、3日間も滞在させてくれるほどに打ち解けたのです。私は彼の車を譲り受けました。滞在中に倉庫に山となったパーツも見せてくれたので、私が、このパーツにも興味があるというと、考えておくという答えでした。あとで私に譲ってくれることになり、イギリスからクロスウェイト・アンド・ガーディナーが引き取りにいってくれました。でも、私たちの誰にも、ウーベが癌を患っていることは教えなかったのです」

ウーベは1960年代に、そのパーツをブガッティ・ファクトリーで資材管理の責任者だったフランソワ・セイフリードから買ったと話していた。その時、セイフリードは1935年のパリ・サロンで配られたというリーフレットを見せながら、「このシャシーは、リーフレットに載っているトルペードのものだ」と話したという。

パーツの山のなかで最も重要なものだったのが、タイプ57S用の"ゴンドラ型シャシー" だった。尻すぼみのリアボディを支えるために、通常のタイプ57シャシーとは異なり、リアレールが内側にカーブしている。ブガッティの専門家の間では、ゴンドラ型シャシーは2~4台製造されたと考えられているが、このシャシーを使った証拠が写真に残っているのはトルペードしかない。それはリーフレットにリアレールが写っていることが証拠だ。ジムが入手したシャシーにはナンバーが入っていないので、これが本物だと証明する根拠がないことは本人も認めている。だが、当時は、販売しない車のシャシーにナンバリングすることは考えにくいというのが歴史家の見方だ。

『ブガッティT57S』(ベルンハルト・ジモン/ユリウス・クルタ著)という信頼すべき書籍には、「ゴンドラ形状の57Sシャシーには、きちんとしたシャシーナンバーが振られなかったようだ」との記述がある。こうした調査から、ジムが手に入れたものがトルペードのオリジナルシャシーである可能性は高い。これには、ユニークな2本のシャシーレールの間にぴったり収まるオイルタンクも付属していた。ゴンドラ型でないタイプ57Sでは、オイルタンクがレールの外側に取り付けられているのだ。

残りの部品は、アクスル、トランスミッション、ドライサンプエンジン、スーパーチャージャー、インテークマニホールドがあった。調査しても、その出所を特定するのは難しいが、すべてトルペードのものである可能性も皆無ではない。

パリでの発表会の記録から、トルペードに"235S" エンジンが載っていたことが判明している。そのエンジンは後に取り外され、"1S"とナンバリングを改め、タイプ57Sアタランテに搭載して販売された。その車は、"1S"エンジンを搭載して現存している。

ジムの車に搭載したエンジンはタイプ57ユニットで、装着した大きなスーパーチャージャーは、本来はグランプリモデルのタイプ54に搭載された5ℓエンジン用だ。興味深いことに、このスーパーチャージャーはユニークなブロアーハウジングを備え、タイプ57のインテークマニホールドとぴったり合った。これは、タイプ57から、あるいはトルペードから、もっとスピードを引き出そうと試みた痕跡なのかもしれない。 



トランスミッションには"20S"とあり、トルペードの翌年、1936年のパリ・サロンで展示されたショーカーのエンジンと一致する。"20S" のエンジンとトランスミッションがともに1936年の車で使われたのか、また、このトランスミッションがまずトルペードで使用されたのかどうか、それはおそらく永遠に分からない。

編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation: Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation: Megumi KINOSHITA Words: David Lillywhite 

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