自動車ファンなら知っている|著名な「ラジエーター・マスコット」彫刻家の復刻品がオークションに

コウノトリがふたたび羽ばたくとき



ジュリー・バザンが目指すもの
彼が作ったマスコットは自動車の世界と密接に関わったものが多いにもかかわらず、当時は巨大なスケールの記念碑のほうが高い評価を得ていたというのも事実である。たとえば1949年のペンハールの岬に建てた十字架の記念碑とか、亡き漁師に捧げるアボットの橋、1916年の有名な空中戦で活躍した名パイロットの胸像などはつとに有名である。つい先日も有名な飛行家であるジャン・カザールのモニュメントが、ヴェルサイユ近郊でレストア公開されたばかりである。

しかし悲しいかな、バザンの作品を手にすることができるのはごくわずかな人たちしかいない。イスパノかイソッタのオーナーにならなければ不可能だ。このことが彼女をして21世紀のコレクターに作品を紹介しようと思わしめたきっかけである。

「芸術の世界はさておいて、彼のことを知る人はほとんどがマスコットのコレクターです。トランクを開けたとき、スケッチブックといっしょに何かが私に呼びかけるんです。祖父の名前を再び世に示せと。そのメッセージを耳にして、今こそが作品の復刻版を作るときなんだと思いました」とジュリーは言う。

彼女は2年前に、祖父とほぼ同じ手法で素晴らしいブロンズ像を制作し、プロジェクトをスタートさせた。異なるのは祖父が石膏を使ったのに対し、彼女はロウの型を作るためにラテックスのモールドを使うという点だ。そうすれば色の付いた粘土を使うことができ、塗装も同時にできるというのだ。そのあとで熱を加える。するとロウが溶け、溶けた部分に銅を流し込むという手法だ。

「銅は一度形を作ると粘土は壊れて、鋳造された銅から剥がれやすくなるのです」ジュリーは説明する。「ここからが職人の腕の見せどころです。充分に冷えたあと注意深く粘土を切削して工程を進めていきます。そうしないと細かい模様がうまく出ないのです。それが無事に終わると銅は緑青が付いて自然な真鍮色になりますが、そうなるためには火加減、水の量、さらに材料として使われるいろいろな金属酸化物が絶妙なバランスで混ざることが必要です。そうでないと思ったような仕上がりにならないのです」

バザンが作ったマスコットがいったいどれほどの数になるのかは、じつはよくわかっていない。80は下らないというのが大方の見方だが、ジュリーは復刻版の対象として10の作品を選んだ。それぞれコニサー・コレクター向けに念入りに制作したナンバー入り限定モデルを8個、それとは別に、純粋に装飾用として使える、さほど高価でないモデルを100個、これもナンバー入りで制作するつもりだ。

「私はこのマスコットを単なる再生産品として見てほしくないんです。その製品の中にも祖父のデザインをアートワークとして反映させていますし、またアートとしてだけでなく多少の機能性を持っていますから、気軽に使っていただければと思っています」

制作個数が限られるので、オークションでの販売となる予定だが、例の「コウノトリ」も100個作られるエントリーレベルのものでほぼ950ユーロ(約12万7000円)が開始価格として予定されている。8個しか作られない上級仕様は3800ユーロ(約50万7000円)あたりまで入札が入るのではないだろうか。マングベツの上級版はオリジナルから無理やり40cmの長さに拡大したものだが、出来映えは素晴らしく、9600ユーロ(約128万円)あたりで取り引きされるものと思われる。

私は自分の頭をマングベツの頭にすげ替えることはできないが、自分の部屋にそれを置くスペースを確保することならできる。残る問題は値がどこまで上がっていくかということだけである。(詳しくはwww.fbazin.com)

頭部を後方に延ばしたマングベツの女性像が複数あるのはジュリー・バザンの仕事の成果である。

編集翻訳:尾澤英彦 Transcreation:Hidehiko OZAWA Words:Simon de Burton

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