輝きを取り戻したルビー色のフェラーリ│注目されなかった1台のいま

Photography: Michael Bailie



ルッソの周りを見て回っているうちに、自分が普段着であることが恥ずかしくなってきた。それほどにこの車は上品で優雅で、そしてどうみても高価だったのである。新品のようなタンのレザーインテリアはこれまたボディカラーと完璧な調和を見せている。レザートリムはコノリー"ルクサン" を使っている。これはもともとフェラーリに供給された特別ななめし革であり、"適切な" 素材であることは言うまでもない。メイストン-テイラーはコノリー・ブラザーズのジョナサン・コノリーに依頼し、彼が資料を調べてレストアに使用する正しい革を見つけたのだという。インテリアの張り替えを任されたのは、この世界で第一人者とされるモト・テクニックのロブ・オルークである。

ドアを開ければ、本物のコノリーレザーの素晴らしい香りに包まれる。バックレストが固定式のバケットシートに滑り込むと、まるで最高級のエルメスのハンドバッグの中に潜り込んだような気分だ。パイピングが施されたシートから、レザーでカバーされたトランスミッションのトンネル、キルト張りのリアデッキとラゲッジストラップまで、まったく申し分ない。フェラーリのコクピットに座るということは、それだけで記念すべきイベントなのである。



細いピラーのおかげで室内は明るく広々としており、すべての方向にわたって視界は良好だ。昔から奇妙だと言われてきたインストルメントパネルだが、改めて見ると一般的ではないがそれなりに魅力的だと思う。大きなヴェリア製の速度計と回転計はダッシュ中央に、ドライバー側に向けて取り付けられている。もっと小さなメーター類はドライバーの正面にまっすぐ配置されている。長いギアレバーはちょっと華奢だが、前端にわずかな凹みが刻まれて使いやすい。レーシングカーとは違ってシフトレバーの根元はレザーブーツで覆われている。

大きなウッドリムのステアリングホイールは美しく仕上げられているが、クロームの灰皿にはわずかに古錆が浮いていることに気が付いた。もちろんメイストン-テイラーは、あえてオリジナルのままにしておくことを決めたのだという。それはボンネットのバッジも同様、このルッソのユニークなヒストリーの象徴をそのまま残そうとしたのだ。

シャシーナンバー「4411GT」の1963年250GTは26番目のルッソで、もともとフランスの女優であるミレーヌ・ドモンジョによって注文された車だが、結局彼女の下にはデリバリーされなかった。購入したのはパリ在住の紳士で、彼はこの車を1980年代はじめまで、南仏マントンの別荘に出かけるロングドライブに使っていたという。その後ガレージにしまい込み、1996年になって英国人に売却、その後は2003年までロンドンの某所に保管されていたらしい。そして今、4411RUというナンバーを付けたフェラーリのオドメーターはわずか5万9000km。まさしく掘り出し物である。

後日、この車の昔の写真を見たが、使い込まれた上品なオリジナル状態のまま残されtていなかったことを非常に残念に感じたものだ。メイストン-テイラーも同じ気持ちだったというが、つぶさにチェックした結果、既に40年を経たフェラーリは明らかに傷んでおり、レストアする必要があると判断したという。そして、4411GTはリンクスの流儀に従って、おそらく現存する最高のルッソへ生まれ変わったのである。

編集翻訳:高平 高輝 Transcreation: Koki TAKAHIRA Words: Robert Coucher 

無料メールマガジン登録   人気の記事や編集部おすすめ記事を配信         
登録することで、会員規約に同意したものとみなされます。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

RANKING人気の記事