輝きを取り戻したルビー色のフェラーリ│注目されなかった1台のいま

Photography: Michael Bailie



もっとルッソを知りたいと考えて、ライの町でメインロードを外れ、ウォランド・マーシュを横切ってダンジネスを目指した。これはロードテストではないが、もう少し鞭を入れてもいいはずだ。年代物のミシュランXWXタイヤは205セクションだが、オフセットしたホイールのおかげで実際よりも太く見え、なにより期待通りの性能を発揮してくれた。グリップはもちろん高くないけれど、実際の路上でのハンドリングはスムーズで穏当なもので、神経質なそぶりはまったく見せず、直進性も優秀だった。もっとも、荒れた路面や段差では正直にショックを伝えるが、これはあくまで1960年代の車であり、それを操縦しコントロールするのはドライバーの役目である。それが楽しいのだ。



遠い霧の中に巨大なダンジネス原子力発電所の建物が浮かび上がっている。この辺りには英国最大の頁岩の海岸が広がり、小さな木小屋が点在している。まるでデイヴィッド・リンチの映画の中のようだが、ルビー色のルッソはその白い岩の上に打ち上げられた、信じられないほど大きなルビーのように見えた。

私とメイストン-テイラーは風雨にさらされた「パイロット・イン」というパブを見つけ、そこでこれまでで一番美味しく、かつ心がこもったフィッシュ&チップスを食べながらフェラーリについて語り合った。私が学んだのは、レストア完成直後の2004年時点ですら、この車の価格は23万~25万ポンドだったということ、それでも250SWBの1/3でしかなかったということだ。今なら少なく見ても3倍にはなっているだろう。

メイストン-テイラーは年季の入ったヒストリック・レーシングドライバーだが、彼だけでなく仲間のフェラーリ・オーナーたちもルッソの価値を再認識するようになったことは喜ばしいという。これは最も速いフェラーリではないものの、ビーチやランチに出かけるには打ってつけのモデルだ。経験を積んだ大人が、しばし日常を忘れて優雅なグランドツーリングを目指す時にも、これ以上に相応しい車はないかもしれない。エレガンスとさり気なさ、そしてちょっと気取った気品がこれほど見事に融け合っているフェラーリは他にない。ルッソは走る情熱だけでなく、詩情さえ感じさせる稀なフェラーリである。

編集翻訳:高平 高輝 Transcreation: Koki TAKAHIRA Words: Robert Coucher 

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