究極を追い求めて│ジャガー Eタイプの歴史に新たな1ページを加えた1台

Photography: James Lipman



では、オリジナルEタイプが最高のパフォーマンスを見せたらどの程度対抗できるのかを確かめてみよう。青い車の小さく軽いドアを開け、体をよじってコクピットに乗り込む。すると、シートが柔らかく心地いいこと、車内が開放的で視界が素晴らしいことに気づく。オリジナルEタイプのステアリングを上回るものは、いまだ現れていないといっても過言ではない。細いウッドリムと穴あきスポーク、ボスにはチェッカーフラッグに重なるジャガーのエンブレム。初期のダッシュボードは、大きくシンプルなスミス製のメーター、整然と並ぶスイッチ、補助的な計器類に至るまでが美しい。キーを回すと、DOHC直列6気筒エンジンは安定した静かなアイドリングに落ち着く。クラッチもギアも軽く、アクセルの動きは非常に鋭い。ストロークの長いエンジンに対し、オリジナル仕様のSU製トリプル・キャブレターはまさにうってつけで、エンジン音は最初から穏やかだ。



緩やかにくねる郊外の狭い道をゆくと、乗り心地はしなやかで、柔らかいと言ってもいいくらいである。エンジンとギアボックスが温まると、ジャガーは静かにくつろいだ雰囲気になり、実に寛容な態度を示す。4輪独立懸架式のサスペンションがバンプを見事に吸収する様は、最初に登場した1961年当時から、Eタイプがいかに技術的に進んだ車だったかを思わずにはいられない。セパレートシャシーの先行モデルXK150から、一気に何光年も進んだかのようだ。

スピードを出せる道に出ると、Eタイプのエンジンノートが深みを増し、情熱を抑えながら徐々に速度を上げていく。ヘンリーは標準エンジンでの210bhpは本当に出ていたと考えている。イーグルチューンの公称値265bhpさえ楽観的過ぎるだろう。しかも、低速でのトルクが太いので、前進で5段階を選べるギアでも、シフトチェンジはほんの少しで済むのだ。速度が上がるにつれて、イーグル独自のサスペンション・セットアップが生きてくる。リアエンドはよくコントロールされ、ターンインでもあの素晴らしいステアリングの操作に正確に反応する。Eタイプは終始静かで落ち着いた走りを見せ、45年前の車とはとても思えないほどモダンに感じられた。



優れた車をベースにして、そこへ大きなパワーと素晴らしいパフォーマンス、グリップ力の高いハンドリングを加えた上、特注のエアコンとヒートガラスでユーザービリティも高まっている。こうして見ると、ロードラッグはその目的を見事にクリアしている。究極のEタイプといえるか? 答えはイエスだ。ドライバーを不安にさせず、こともなげに楽しませているロードラッグには、ますます感服させられる。

ただし、この最高級のEタイプは、値段も最高レベルだ。イーグルはこうした特別なロードラッグGTを5台ほど製造する予定で、1台なんと65万ポンドもする。だが、それで究極のジャガーEタイプが手に入るのだ。それとも、16万5000ポンドで、オリジナルに近い1968年製4.2 FHCを手に入れるか……。

当然ながら、路上でロードラッグに直接対抗しても、FHCに勝ち目はほとんどないのだが、にも関わらず、のどから手が出るほど欲しくなる素晴らしい車に変わりはない。そしてロードラッグは、FHCがもつジャガーならではの感触をちゃんと保っており、その点だけでも称賛に値する。その上、アクセルを踏み込んだ途端、"究極のEタイプ" が意味するものを即座に教えてくれるのだ。

編集翻訳:堀江 史朗 Transcreation: Shiro HORIE 原文翻訳:木下 恵 Translation: Megumi KINOSHITA Words: Robert Coucher 

無料メールマガジン登録   人気の記事や編集部おすすめ記事を配信         
登録することで、会員規約に同意したものとみなされます。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

RANKING人気の記事