英国の風格を賢く買うためにおすすめの1台│ベントレー Rタイプスポーツサルーン

Photography: Mark Dixon



いっぽう、この少々軽快感に欠ける、180㎏ほど重い4ドアボディのベントレーRタイプスポーツサルーンは2486台生産され、現在の相場はおよそ6万ポンド(約1008万円)である。これは結構な節約ではなかろうか。

この時代のロールス・ロイスの品質は高く、かなりの数が生き残っている。だが、スタンダードボディが鋼鉄製であること、また、戦後のスティールパネルの品質自体にも問題があることから、錆の問題は否めないのが弱点だ。また、スポーツカーと違って、地味なサルーンの常としてかなりの数がスクラップヤードに送られてしまっている。それでもベントレーRタイプはいつのときも人気があった。基本的には財政的に豊かなオーナードライバーが購入し、何年ものあいだ熱心なベントレ・ードライバーズクラブのメンバーに面倒を見てもらいながら、ガレージの飾りになっている例が多い。

今回のサンプル、完璧なレストアード・コンディションの"ブリュースターグリーン" にペイントされたRタイプはパーフェクトだ。"トフィーブラウン"のレザーの内装が引き立たせる、深いグリーンの外装は申し分のない色調。そして、それらが単調に見えることを防ぐに充分な、絶妙な分量のクローム。ベントレーの丸みを帯びたラジエターグリルは、ロールス・ロイス版であるシルバードーンのそれよりよほど繊細だ。



口の悪いベントレーオーナーはこれを称し
て「ぺちゃんこグリルの葬式車」などと呼ぶ。 この個体のオドメーターはおそらくは正直な数値6万5525マイル(10万5430㎞)を示していて、新品のエイヴォン製ターボスティール・タイヤを履いている。ボディのチリは極めて細く、ドアはかちりと閉まる。そこいら中に灰皿があるインテリアはすばらしく、ディテールは楽しく、また全ては注意深く構成されている。以前のオーナーは潔癖症のドイツ人紳士で戦前車のフィールを残しながらきちんと走る車を欲していて、そしてRタイプは経済的にもぴったりだった。直立姿勢のドライバーズシート(現代のシートベルトが慎重に取り付けられている)からフロントスクリーンを通して眺める長く狭いボンネット。誇らしいフライングBのマスコットと、左右のフロントウイング上に控えめに取り付けられた上品さを演出するサイドライト。実際Rタイプは見るからに戦前車の趣だが、さて、走りは如何に?

キーホルダーにはドア用の小さなエールキーがぶら下がっているが、スタートにイグニッションキーは必要ない。優雅な木工細工が施されたウオールナットのダッシュボードの中央に位置するコントロールセンターの重厚なクロームのマスタースイッチをひねり、その隣にあるスターターボタンを押す…。何もおこらないように見えるが、しかし、サイドウインドウを下げてみると、かすかな音が耳に入り、大型の6気筒エンジンがほとんど無音で回っていることがわかる。その上、室内は完全に隔離されていて、振動はまったく伝わって来ない。



ギアセレクターレバーはロールス・ロイスの伝統に従い、Rhdでもドライバーの右側、すなわちドライバーズシートと右フロントドアの間に位置する。軽く床まで沈むかわいいクラッチペダルを踏んでノンシンクロの1速に入れ、アクセルペダルをほんの少し踏み込むと、ベントレーは静かに動きだす。ローは驚くほどハイギアードなので50年代の車として想像した以上に長くホールドする必要がある。まっすぐにつき立ったギアセレクターレバーはチェンジの際は最小限の力で変速する。ステアリングホイール中央のリアサスペンションのライドコントロールノブをファームポジションにスライドし、スロットルを適切に開けると、ベントレーは瞬時に飛び出す。アンダーギアドなウォーム・アンド・ペグ式のステアリングと戦いながら、静かなカントリーレーンを無作法なスピードで疾走し、Rタイプを正しいコースへ乗せようと奮闘する。"Goodness!" 、1919年の3リッターモデルからベントレーの代名詞になっている「にギアか」を思い出さずにはいられない。 

編集翻訳:小石原 耕作 Transcreation: Kosaku KOISHIHARA Words: Robert Coucher 

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