もっとも速く、もっとも美しい|ベントレーにおける「最良の答え」を示した伝説のモデルとは?

1953年ベントレーRタイプ コンチネンタル ファストバック(Photography:Charlie Magee)



この車は見るからに大きく、長さは200インチを優に超えて206インチ(5245mm)もあり、まさにリムジンと呼ぶにふさわしいサイズだが、2ドア・ファストバックボディゆえに乗車定員はわずか4名に留まる。長さはあるがほっそりと優美なことに加え、以下に述べる軽量対策により、車重は1724kgしかない。顧客対象とされたのは、お抱え運転手を雇えるような富裕層だが、この車ならたとえヨーロッパの端から端であっても、きっとオーナー自らがドライブしたくなることだろう。ファイナルドライブは高めに設定されているから、172bhpのパワーを発する直列6気筒エンジンは120mph(約193km/h)までスリークなボディを押し上げる。ちなみに、エンジンはサルーンの140bhp仕様をハイチューンした4.5リッター153bhpを、さらに4.9リッターまで拡大したものを搭載する。大柄な車でありながら加速性能も驚くべきもので、0-60mph(約0-96km/h)をわずか13.6秒で走りきってしまう。少し前ならジャガーXK120のような軽快なスポーツカーでなければなしえない性能である。

そのために軽量化は徹底された。アルミニウム構造の採用はその代表的なものだが、細かいところでもサンバイザーをドライバー側だけに限ったり("重量増"を覚悟すればパセンジャー側にも付けられたが)、ラジオも標準では省かれたり、フロントシートも簡素なアルミフレームのバケットタイプとするなど、涙ぐましい努力が積み上げられた。Rタイプ・サルーンや、通常は快適性を極めるコーチビルダー仕立てのモデルとはほど遠い仕様かもしれない。しかしそれはこのベントレーがひとつの目的をもって企画された証拠で、生産モデル前のプロトタイプがモンレリー・サーキットをテスト走行したときの5ラップ平均速度118.75mph(約191km/h)を量産モデルでも実現させようとしたためのスペックであった。プロトタイプのこの性能に驚嘆した海外のベントレー・ディーラーからは市販を切望する声が相次いだ。その結果、1931年からベントレーを傘下に収めてきたロールス・ロイスの上層部は、そうした特別なプロジェクトでもマーケットは成り立つと判断したのだった。

現代のデザイナーが語る「ベントレーらしさ」とは?
「気に入っているところはどの部分かですって?何といってもフロントとリアのフェンダーの膨らみですね。私には教会に向かって延びる架け橋のように見えるのです。こんなにロマンチックな車はなかなかあるものではありません」

こう語るのは55歳になるベントレーのデザイン・ディレクター、ステファン・ジーラフだ。彼は2015年からこの職に就いたばかりだが、新型コンチネンタルGTのスタイリングの決定に関与しただけでなく、ベントレーの"デザインDNA"をしっかり自分のものにしている。いまやベントレーのデザインに不可欠な人物と言って過言ではない。彼はこう続ける。

編集翻訳:尾澤英彦 Transcreation:Hidehiko OZAWA Words:Glen Waddington Photography:Charlie Magee

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