もっとも速く、もっとも美しい|ベントレーにおける「最良の答え」を示した伝説のモデルとは?

1953年ベントレーRタイプ コンチネンタル ファストバック(Photography:Charlie Magee)



よいデザインの車は家族の一員になる
しかしながら細部の設計は今日、まったく違った手法で作られる。たとえばヘッドランプやテールランプがそうだ。Rタイプではそれらも専用設計である。このファストバックのヘッドランプが最新のベントレー全車に大きな影響を与えていることは疑う余地もないが、それはヘッドランプ個々のデザインがどうのというよりは車そのもののポジショニングさえ決定づける力がある。今日では、クリスタルカット・ガラスから発想の刺激を受けているという。

「肝心なのは全体の雰囲気です」とジーラフは言う。「ひとつのシャンデリアにどれだけのキャンドルライトが使われているか想像してみてください。現代の多くのラクシュリーカーはライトの扱いがないがしろにされていますが、我々はそうはしたくなかった。車に限らず英国に残る伝統の品々を考えてみてください。クリスタル・タンブラーに注がれたスコッチ・ウィスキー、伝統的な田舎のホテルの、いろりのある風情。こうしたものに我々は思いを馳せなければならないのです」

もしあなたが最新型のベントレーが好きだとしても、屋外にこのファストバックが駐めてあったら写真の一枚も撮りたいと思うだろう。屋外でなくてもスタジオでもRタイプはオーラを放っている。ジーラフは、力強さ、威厳、スピード感、そして圧倒的な存在感は特別だと指摘する。とくにテールのそれは圧巻で、ルーフ前方の縁からフロアまでがひと筆書きの1本のラインでつながっているのは見事であると。このあたりが風洞で何もかも削り落とされた現代の車と違う、流線型が全盛だった時代にデザインされた車の特徴なのだという。速そうに見えるということは実際にも速いのだ。

流線型のボディスタイルは見る者を飽きさせることがない。もちろんそれは時代を象徴するスタイルの特徴で、この車だけのものではない。しかし、希少な車であること、卓越した路上性能、そして見事なスタイルと良好なコンディション、これらを合算すれば100万ポンド以上の値段が付けられていても納得できる。もしブラッチェリーの作品が時代を超越するものでなかったら、いまここでこれほど注目されることはなかっただろう。そしてジーラフがリーダーシップを発揮してベントレーのデザインに就くことも、おそらくなかっただろう。

「デザイナーはなにも時代の先端を行くものを求めているわけではないのです。とくにラクシュリーブランドにおいては流行を超越した作品を作り出すことが必要とされます」

編集翻訳:尾澤英彦 Transcreation:Hidehiko OZAWA Words:Glen Waddington Photography:Charlie Magee

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