ジョアッキーノ・コロンボが残したV12エンジンの素晴らしさとは?

Photography:Paul Harmer



コロンボが最初に手がけた125のエンジンブロックとヘッドは、シリコンを含有したアルミニウム合金、"シルミン"で作られており、7個のベアリングを抱えるクランクシャフトは表面に窒素を浸透拡散させることで硬度を上げている。そもそも、クランクシャフトは1本のスチール棒からの削り出しだ。燃焼室は半球形で、カムシャフトはその上に位置する。だが吸排気バルブは専用のカムシャフトで駆動されるわけではない。オーバーヘッドカムシャフトとはいってもきわめてクラシカルな形態で、双方のバルブステムが成す角度はきわめて広い。各バンク1本ずつのカムシャフトは並列3本がけの頑丈なチェーンで駆動され、左右に振り分けた一対のロッカーアームを動かす。片方が吸気バルブ用で、もう一方が排気バルブ用だ。対をなすロッカーアームは作動の上では1ペアだが、構造的にはペアではない。それぞれを固定するアルミ製ハウジングは隣りのシリンダーのロッカーアーム・ハウジングを兼ねていて、排気側なら排気側ロッカーアームのピボット軸を共通化している。すべてのロッカーアームはカムシャフトとの間にローラーを介して接しており、ローラーはカムシャフトのベアリングキャップの役割も果たす。

オリジナルの設計ではスパークプラグの位置はシリンダーヘッドのキャブレター側にあった。この方式はツインチョーク・ダウンドラフト型ウェバー3 基のときは都合がよかったが、1948年の166インターがツインチョーク1基を搭載するようになると作動上、具合のよくないことが露呈した。馬力が求められるときはツインチョークを6基を積んであたかも密林のようになるが、そのぶんプラグへのサービス性は最悪になるからだ。そこで今度は排気エグゾースト側にプラグ位置を設けた新しいシリンダーヘッドが設計された。同時に、1バルブあたり2本を要していたヘアピン型のバルブスプリングも廃止、結果ロッカー部分は小型化された。しかし、1940年代の冶金技術では最良の選択肢であったヘアピン型スプリングを捨て、コイルスプリングを採用したということは、コロンボらしさの一部を失ったということでもあった。

カール・ルドヴィクセン著『フェラーリ50年の技術革新』にはこのようなことが記されている。"スプリングはワイヤをねじったものより曲げたもののほうが大きな反発力が得られる。とくに物を閉じる際の利用にはより適している。往復運動に影響を与えないようにするためには、スプリングの重量はバルブステムにかかってはならない。軽くて短いバルブを実現するにはスプリングを小型化することが有効な手段である"。しかし冶金技術は進歩し、その後はコイルスプリングが一世を風靡する。

この設計変更の合理性は1957年の250テスタロッサで確かなものとなる。自動車用エンジンとしてリッター当たり100馬力の大台に乗せたからだ。ウェバー38DCNキャブレターを6基載せたことで2953㏄の排気量から290bhpを発揮してみせた。数字は若干足りないが、それを指摘するのは無粋というものだ。気筒あたり排気量が250ccのテスタロッサ・エンジンの特徴は、ヘッドガスケットに鋼製リングではなく一般的なものが使われたこと、ヘッドのスタッドボルトの数が増やされたこと、それにメインベアリングが大きくされたことである。

その結果、
シリンダーヘッドはランプレーディのものに近い形状となったが、ひとつだけ大きな違いがある。冷却である。通常エンジンは大型になるとウェットライナーをシリンダーヘッドにねじ込ませてヘッドにシールの問題が起こらないようにするが、このエンジンではそれに起因するピストンリングの圧縮に関わる問題にも徹底した対策が施されたのだ。ランプレーディはこの設計変更に直接関与していない。コロンボがフェラーリを去る5年後の1956年に、ランプレーディもまたフェラーリを辞しフィアットに移っている。ヤーノはまだ事の推移を静観していた。

編集翻訳:尾澤英彦 Transcreation:Hidehiko OZAWA Words:John Simister

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