ピーター・セラーズがソフィア・ローレンよりも愛した!? フェラーリの最高峰モデルとは

フェラーリ 500 スーパーファスト(Photography: Lies De Mol)



こういった波乱万丈な過去は、この車の価値を一層高めている。ベルンハルト王子やイラン国王が乗っていたスーパーファストなどどうでもいい。これは「グラマー」という言葉がまだポジティブな意味を持っていた時代に、ブリット・エクランドを助手席に、そしてそのすぐ隣に世界的な喜劇俳優を乗せていた車なのだ。

セラーズのスーパーファストの内装の雰囲気は、とてもイタリア的だ。あるのはウッドのステアリングホイールリム、美しいヴェリアのスピードメーター、典型的なピニンファリーナの灰皿、モダンな印象をうかがわせるベークライトのボタン、パワーサイドウィンドウ、滑らかなレザーとクロームのアクセントのみ。

後部座席が装備されているスーパーファストもあるが、セラーズは2シーターコンフィギュレーションを選択した。バーで飲むためだけにヴィラ・ボルゲーゼを貸し切りにしたような、まさに贅沢の極みと言っていい。ラジオは取り付けられていたが、ディオンヌ・ワーウィックですら、その巨大なV12のエンジン音をかき消すことはできなかっただろう。

富豪のための高速クルーザー
実際のパフォーマンスもその名に恥じることはない。とてつもなく速く、高速での安定性も良く、長距離を運転しても快適だ。トルクも申し分なく、特に急いでいるというわけでなければ、リラックスして走りを楽しむことができる。

ダンロップのブレーキは効きがよく、少々の減速なら軽く踏むだけで容易に速度を調整できるだけでなく、かなりのスピードを出しているときでもこのヘビーな車体を素早く減速させるのに充分な性能を持っている。高速でコーナーを抜けるときに多少スライドしても、まったく問題ない。ただし、スーパーファストは正真正銘のスポーツカーというわけではない。このグランドツアラーのサスペンションでは、高速でのコーナリングではなく、快適性が重視されている。ステアリングは、低速時はわずかに重く感じるものの、非の打ちどころがない。

電気式オーバードライブ付き4段トランスミッションは、ギアが噛み合う前にシフト操作を急ぎすぎると小さな音をたて、メカニカルな感覚が心地よい。手は自然と、滑らかにシフトする長くエレガントなギアレバーのヘッドに落ち着く。ペダルの位置は高く、足がロアダッシュボードの後ろにひっかかりがちなため、慣れるまでには少し時間がかかるかもしれないが、クラッチは重すぎずちょうどいい感触だ。シリーズ2の11台だけには、一般的な5段トランスミッションが装備されている。

しかし、すべてのフェラーリ同様、最も重要なのは心臓部だ。ジョアッキーノ・コロンボが設計したV12は、1950年代のF1でそのキャリアをスタートさせ、500 スーパーファストのボンネットの下に取り付けられる頃までには、5リッターユニットへと進化していた。クラック仕上げを施した典型的なマットブラックのカムカバーを備え、3基のウェバーキャブレターが最高出力を360bhpまで押し上げる。

大きなエンジンの震えは、外科医の手のそれよりも小さいが、スロットルケーブルの端に憤る"ピットブル"がいるかのように感じる。洗練されたメカニカルな要素の数々が凄まじい力を生み出すその姿は、ジキルとハイドのようだ。ミッドレンジのトルクは厚く、6000rpmを超えると、かつてGPで活躍したマシンを思い起こさせるかのようなパワーを発揮する。しゃっくりのように吸気を始めると、喘息のトラックのような音がするが、スパークプラグが混合気に点火するや否や、うっとりとするようなメロディーを奏でる。

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation: Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:渡辺千香子(CK Transcreations Ltd.) Translation: Chikako WATANABE (CK Transcreations Ltd.) Words:Bart Lenaerts Photography: Lies De Mol 取材協力:クーン・ポシェット(www.albionmotorcars.com)

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