1971年のF1を象徴するマシン│マーチ711を解き明かす

Photography: John Colley and Jeff Bloxham



1971年、シルバーストーンでロニー・ピーターソンはSTPカラーのマーチ711をテストしていた。いっぽう、ライバルのBRM153に乗っていたのはニュージーランド出身の若手ハウデン・ガンレイ。ロニーは昼頃にはスウェーデンへ帰らなければならなかったが、ちょうど同じころにBRMチームは仕事を終え、ガンレイも帰り支度をしてぶらぶらとマーチのピットを訪れ、旧知のロビン・ハードと話をしていた。そこでハードが急にガンレイに訊ねた。

「ち
ょっとだけタイヤテストをする気はないかい?ロニーは急いでスウェーデンに帰らなければ 現在で言えばルイス・ハミルトンがレッドブルのマシーンに乗るような仰天の出来事だ。だがガンレイは実に楽しそうに語った。

「BRM
のマネジャーのティム・パーネルに断ったかもしれないが、よく覚えていない。あの頃はそんなことは別に珍しくなかったんだ。ロビンとはずいぶん前からの友人で、実際にマーチに乗らないかという話もあった。だが、彼らには予算がなく、それでBRMに入ったんだ」

グランプリカーがそれぞれに特徴的だった時代、それはライバル車と比較するまたとない機会だった。BRMは自製のV12を搭載しており、マーチのエンジンはコスワースV8。「153は回すと素晴らしいエンジンを積んでいたからシルバーストーンでは文句なし。マーチのDFVはもっと退屈だった。だがベケッツのような低速コーナーからの立ち上がり加速は良く、ストレートでのスピードがだいぶ違った。それにBRMは15インチホイールを履いていたが、あの頃は他の皆は13インチに切り替えていた。それもあってマーチは直線が速かった」

エンジンの構造の違いはマシーンの他の面も左右する。「DFVはV8だから当然短く、重心がもっと前の方にあった。ロニー用のペダルはかなり奥の方にあったが、私もそんな配置が好みだった。ちょっとアンダーステアが強かったように思うが、リアウィングとスタビライザーをちょっと調整したら問題なくなった」



特徴的な長円形のフロントウィングはどうだ
ったのだろう? 「〝ティートレイ〞はかなり角度をつける必要があるようだった。アンダーステアはロニーの運転スタイルによるものだったかもしれない。彼のコントロール能力は抜群で、コーナーで一気に向きを変えるスタイルだったが、私はできるだけ早くターンし、フル加速するというタイプだった」

「私はその前年の701をテストしたこともあ
るが、711はそれより明らかに軽くバランスも良かった。若い頃のロビンは色々な面で時代に先んじていたと思う。たとえばフロントウィングの支柱は、今では当たり前に皆が使っている方式だが、当時はそうではなかった。701に使ったエアロダイナミックなサイドポッドも同様だ。あの時ロビンが次のシーズンも711を使って引き続き改良し、それに701のサイドポッドを加えたらどうなっていただろうとよく考えるよ。ロビンはほとんどそれに近づいていたんだ。ただし、そのうちにコリン・チャップマンとピーター・ライトがエアロダイナミクスの先導者となり、ロビンは結局711を諦めて721を設計することになる。だが、あの時シルバーストーンで711を降りる時に考えたことを今でもよく覚えている。これでレースしてもいいな…、と」

編集翻訳:高平 高輝 Transcreation: Koki TAKAHIRA 

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