ドナルド・ヒーレーが使用した個人的なアイテムの思い出

Photography:Jason Fong

ドナルド・ヒーレーとその息子ジョフリーが使用した個人的な品々がオークションにかけられた。出品を決意したジョフリーの娘ケイトから、祖父と父にまつわる思い出を聞いた。

西ロンドンの工業団地の一角。ヒーレー家の世界を垣間見るには不似合いな場所だが、そこがオークションにかけられる品を準備するボナムスの施設だ。私たちが訪れたときも作業の真っ最中だった。ドナルド・ヒーレーと息子のジョフリーにまつわる品、それも、人となりを思わせるごく個人的なものが多い。



計画書や設計図、スケジュール帳、オーバーオール、バッジ、販促資料や宣伝用小物のほか、ウイスキーのボトルや、ジョフリーがボンネビルの塩を詰めた35mmフィルムのプラスチック容器。こうした品々がまさに目録に載せられているところだ。



出品したのは、ドナルドとジョフリーを"ポップ"と"ダッド"と呼んで育ったケイトとセシリア・ヒーレーだ。二人は未来に進むために、思い出の品々に新たな家を見つけることにした。こうして、ヒーレー・コレクションは2017年9月にグッドウッドでオークションにかけられた。

ケイト・ヒーレーは、『Octane』のためにウォリックシャーからやってきて、二人の偉人が残した品にまつわる話を聞かせてくれた。


ドナルド・ヒーレーのレス・レストン製オーバーオール



染みひとつないレス・レストンの耐火性オーバーオールはドナルドの品だ。ケイトは「本当に小さいわよね」と言うと、このオーバーオールの清潔さがドナルドとジョフリーの個性を物語っていると話した。「ポップと父の性格はまったく違ったの。父は身なりに無頓着でパイプを愛用していた。あんなに優しい"ジェントルマン"はどこにもいない。へそ曲がりでひどく頑固なところもあったけれど、本当に特別な人だった」

ジョフリーが常にパイプの煙に取り巻かれていたのも、根が内気な性格から来る一種の鎧だったのではないかとケイトは話す。ジョフリーは14歳のときに模型飛行機があたって前歯を折ったが、10代後半になるまで義歯を入れずにそのままだった。「それがどう影響したか、想像できるでしょう」とケイトは言う。口ひげも鎧の一部だったとケイトは考えている。彼女は、祖母アイビーや叔父のビックとジョンの功績も熱心に語った。「たいていは名前の挙がらない人たちだけれど、彼らの支えなしではポップの偉業もあり得なかった」

几帳面で裏方としての能力に長けたジェフリーの性格は、社交的で自信に満ちあふれたドナルドの人柄をうまく補っていた。「ポップはダッドを100%信頼していた。ダッドも父親を尊敬し、父親のためなら何でもやった。つまり、二人は素晴らしいコンビだったのよ。ダッドは、スポットライトを浴びる役割をポップに譲っていた。自分は目立ちたくなかったから」

「ポップはいつもスマートでお洒落だった。上等なスーツを着て、すごくエネルギッシュで、アフターシェーブの香りをさせていて。ポップが訪ねてくると家中が浮き立ったものよ。いつも早起きで、せわしなく動き回っては、だれもがそうするものと思っていた。朝食は必ず、半分に切ったグレープフルーツと、ボーンチャイナのカップに注いだ紅茶に、トーストとマーマレードだった。トーストの温度まで決まっていたのよ」


編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.)  Transcreation: Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation: Megumi KINOSHITA Words:Martin Gurdon 

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