元をたどれば軍用車にたどりつく│フォルクスワーゲン・シング

Nostalgiccar auction

優れたユーティリティビークルの中には、元をたどれば軍用車から生まれたものが少なくない。カムフラージュとはほど遠いカラーリングながら、このフォルクスワーゲン・タイプ181もそのひとつだ。ルーツをさかのぼると、フェディナント・ポルシェが設計し、第二次世界大戦でドイツ軍が使用したタイプ82キューベルヴァーゲンにたどり着く。

しかし実のところ、タイプ82とタイプ181に繋がりはなく、それは1960年代初頭に生み出された新設計の車だ。当時、VWの売れ行きが好調だったメキシコ市場で、ビートルより荒地走行能力の高い車を求める声が上がっていたからだ。ビートルとタイプ2から様々なメカニカルコンポーネントを流用したが、プラットフォームは初代カルマンギアのもので、そのロードクリアランスを高くしてある。車内は広く、実用性を追求。フロントウィンドウは折りたため、ルーフは取り外すことができる。こうして、ウィリス・ジープとシトロエン・メアリの中間に位置するような車となった。



イギリスではトレッカーという名称で短期間だけ販売された。ドイツではクーリエヴァーゲン、メキシコではサファリ、そしてアメリカでは単に"物"を意味する"ザ・シング"と呼ばれた。

このサンシャインイエローの"シング"は、おそらく現存するタイプ181の中で最高の1台だろう。乾燥したアリゾナにあった車で、走行距離は2万6000マイルに留まる。純粋主義者の中には、本来1600ccのエンジンが1795ccにボアアップされ、ツインキャブレターとパフォーマンスを上げる吸気マニホールドに換装されている点を問題視する人もいるかもしれない。だが、パワーアップで楽しさが倍増していることは間違いないし、空冷エンジンの信頼性に影響はないはずだ。



これを持ち込んだのは長く所有していたオーナーで、ペイントも内装も傷ひとつない第一級のコンディションだ。当時の綾織りのフロアマットやネット状のシェルフ、ツールキット、ハードトップも付属する。唯一足りないのはキャンバストップとサイドカーテンだが、新しいものがアフターマーケットで簡単に手に入るはずだ。残る問題は、これがお好みに合う"物(シング)"かどうかだけだろう。

編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation: Kazuhiko ITO( Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation: Megumi KINOSHITA

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