フェラーリV12エンジンを積んだ1950年代風GTカーとは?

Photography: Martyn Goddard



熱狂的なエンスージアストであるビル・グリムズリーの"ガット計画"は、申し分のないドライバビリティとスタイリング、最新のシャシーをまったくの白紙から作り出そうというものだった。彼はまた細部についても徹底的にこだわった。たとえばドアハンドルはピニンファリーナの造形のように指に吸い付くもので、巨大な黒いイエガーのアナログメーターはダイヤモンドパターンの磨き上げられたアルミパネルに据えられている。もちろんホイールはボラーニのクロームスポーク、それに6.00×16サイズのミシュランを履く。

モール・コーチビルダーズのクラフツマンは、ウィンドーフレームや大きなフューエルフィラーなど、無数の"ワンオフ" パーツを細心の注意を払って作り出した。燃料フィラーが取り付けられた15ガロン(約57リッター)入りの燃料タンクは、簡素でスパルタンなトランクの中できらりと光っていたが、それはまるでミッレミリアに出場するコンペティションモデルのようだった。それに比べればサイドベントはドイツ風と言えるかもしれない。おそらくはメルセデス・ベンツ300SLに着想を得たのだろうか?



2トーンのレザーバケットシートに座り、TVRのように大きなセンタートンネルの上に肘を置く。コンペティション志向は一貫しており、センタートンネルにも毛足の長いカーペットなどは貼られず、リベット留めされたポリッシュ仕上げのアルミニウムパネルが剥き出しになっている。ドリルホールを穿たれたペダルの周りはヒール&トゥを行うに十分なスペースがあり、カスタムメイドのウッドリム・ステアリングホイールは、乗り降りしやすいようにリムの下部がフラットな形状に作られている。ステアリングホイール越しの前方視界も良好だ。

ボンネットを開けると、整列したウェバーの吸気トランペットが現れる。それはフェラーリ250GTOと同様のスペックを持つエンジンの黒い結晶塗装のカムカバーの上に、12個並んで輝いていた。キャブレターを挟むように伸びたV字型のチューブラーフレームは、フロント周りの剛性アップに効果を発揮するという。エンジンベイはアルミニウムパネルで仕上げられており、左側のホイールアーチの上には「モール・シャシー12435」と刻まれた誇らしげなマニュファクチュアラー・プレートが取り付けられている。

一旦少し離れて、改めてそのプロポーションを眺めてみる。ヌッチオ・ベルトーネか、あるいはジョルジェット・ジウジアーロが私の肩越しに眺めていたら、彼らもうなずいてくれると思う。ガットはコンピューターの画面上でデザインされたものではなく、伝統的な手法で描かれた。板金職人のジミー・キルロイはモールが描いたスケッチからまず樹脂モデルを削り出し、各部のラインを入念に手直しした後にワイヤモデルを作成したのだという。私はザガートを真似たダブルバブル・ルーフの処理がとりわけ気に入った。

これと並行してマイケル・アーノルドの協力の下でロータス風のシャシーが設計された。接着剤とリベット留めを併用して製作された強固なバックボーンには、Y字型のサブフレームが取り付けられ、それが4 輪独立サスペンションを支える。丹念に成形されたキルロイのアルミニウムパネルは、いわゆるスーパーレッジェラ工法で取り付けられている。残念なのは、このような素晴らしく芸術的な仕事が外からはほとんど見えないということだ。

96インチ(約2431㎜)のホイールベースと58インチ(約1470㎜)のフロントトレッドを持つガットは、現代のイタリア製ミドシップカーと比べてもかなりコンパクトであり、またエアコンディショナーなどの快適装備を備えているにもかかわらず、車重はわずか1043㎏にすぎない。

オーナーのビル・グリムズレイはボルドー色のフェラーリ458イタリアに乗って姿を見せた。もっとも、彼はシェイクダウンが完全に終わるまで自分ではステアリングを握らないという。

「キーを回して家に乗って帰るのは完全に仕
上がった自動車と決めている。だから今はスティーブにすべて任せているんだ」

編集翻訳:高平 高輝  Transcreation:Koki TAKAHIRA Words: Martyn Goddard

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