フェラーリV12エンジンを積んだ1950年代風GTカーとは?

Photography: Martyn Goddard



1960年代のフェラーリやマセラティのクーペを心から愛するビルだが、ヒストリックモデルを完璧にレストアしたとしても、地元カリフォルニアのフリーウェイや山道を安心して運転できるものではないことに満たされぬ思いを抱いていたという。

イタリア語で"猫" を意味するガット・プロジェ
クトのアイディアはそこから生まれた。
「素晴らしいブレーキが欲しいし、エアコンディショナーも必要だ。リビルトされた1960年代のフェラーリV12エンジンと滑らかな5 段ギアボックスを組み合わせれば、高い信頼性を持つ高性能GTカーができるはずだ」

3年計画のこのプロジェクトは完成を目前にしている。だがサンフランシスコのベイブリッジを渡って自宅へ運転して帰るまで、ビルはもう数週間だけ待たなければならない。

きちんと整理整頓されたすべての作業ベイに、製作中あるいはレストア中のホットロッドやクラシックカーが入り混じって入庫しているモールのワークショップの中は、クルマ好きにとってはまさに宝物庫のようなものだ。スティーブ・モールはクラフツマン一家の4代目に当たり、今も息子とともにファミリービジネスを守っている。現代のよう
な大量生産の時代に、そして貴重な職人技が次々と消えてゆく時代に、伝統的な手法でこのような車を作り出すことのできるクラフツマンのチームが存在するのは、実に信じがたいことである。



私たちはドックランド・ストリートの道路工事を避けて遠回りして埠頭に向かった。ガットの優雅なラインは無骨なバンパーに守られてはおらず、ウィンドスクリーンもワンオフの一品もの、それゆえ十分に注意して進んだ。途中ですれ違ったピックアップ・トラックや18 輪トレーラーに乗るドライバーや作業員たちは、いったい何者かと物珍しそうにブルーのクーペを見つめていた。

スティーブは倉庫と海に挟まれた桟橋に楽々とガットを滑り込ませた。有難いことに視界の良さも特徴のひとつなのだ。柔らかな光に照らされたガットは当然ながら人目を引く。犬を散歩させている人は振り向き、デリバリーバンのドライバーは窓から身を乗り出して携帯電話で写真を撮ろうとしていた。

斜め前から眺めるとガットは非常にアグレッシブだ。大きなエアインテークと斜めのラインはパワフルさとスピード感を強調しており、抑揚の強いボディは豊満でグラマラスだ。スティーブの話によると、ジミー・キルロイの最もお気に入りのデザインはフロントのエアインテークだというが、イングリッシュ・ホイール(金属板を曲げて整形する
板金工具)を使って平面のメタルシートからあの曲面を作り出すのはきわめて難しいという。



無理難題と思われるエンスージアストの夢であっても、デザイナーとクラフツマンの優れたチームが力を尽くせば現実の形にできる。ガットはそれを証明する素晴らしいサンプルである。この種の真のビスポーク・コーチビルディングは、1960 年代のオリジナルのイタリアン・クーペの価格が高騰し、実用に用いるにはあまりに壊れやすいということから考えても、ますます盛んになっていくものと思われる。

スティーブはもう一人の顧客であるジャッキー・ハワートンを紹介してくれた。彼は1950年代のスポーツレーシングカーのアイディアを抱いており、キルロイと頭を突き合わせてデザインについて意見を戦わせていた。結局、地元のアリゾナ州フェニックスに帰ってから彼のワンオフ・ロードスターのスタイルを最終的に決めることになった。ど
のような車が生まれるのか、私も数年後が楽しみである。

編集翻訳:高平 高輝  Transcreation:Koki TAKAHIRA Words: Martyn Goddard

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