メタリックに輝くランボルギーニの偉大なるショーカー・マルツァル

1967年ランボルギーニ・マルツァル(Photography:Max Serra)



重いドアを開け、コクピットに身体を落とし込むと、そこはまるで光の国だった。ボディカラーとガラスとメタリックシルバーのレザーの組み合わせのおかげで、たとえどんよりとした曇りの日でも真夏の陽ざしの下にいるように感じた。シートは快適だが、まったく無防備に裸で座らせられているようだ。

6気筒エンジンは一触即発でスタート、アイドルも安定しており、この点ではミウラのV12よりも安心できる。クラッチは軽いが、シフトパターンが逆になっていることを忘れてはいけない。2000rpm以下では3基のウェバー40DCOEキャブレターも不機嫌だが、そこを超えれば、スムーズに反応してくれる。エンジンはいまだにランニングインの段階で、高回転まで回すことはできなかったが、発展途上の状態であることは感じられた。

ギアチェンジはミウラと同じく、力を込めて思い切って操作する必要がある、サスペンションはミウラほどハードではなく、ステアリングもダイレクトさにやや欠けるように感じたが、4シーターには相応しいかもしれない。後方視界は事実上期待できないものの、フロントおよび横方向はまったく違う。1961年のモナコでロータス18に乗って優勝したサー・スターリング・モスもこのような眺めを楽しんだのかと想像せずにはいられなかった。


マルツァルは路面の上、数インチを飛ぶ喧しい石鹸の泡のようなものだ。華奢な手応えゆえ、交通量が少ないことが有難かったし、涼しい気候だったせいでシルバーに輝くコクピットでも快適だったのは幸運だった。真夏に乗ることを考えるとぞっとする。マルツァルは市販ツアラーを意図したものではなかったので、最後まで開発されることはなかったが、その基本構成は非常に魅力的だ。残念なのは奇妙な6気筒エンジンのサウンドぐらいである。できることならこのままモナコまで走って、神聖なストリート・サーキットをレーニエ三世のように回ってみたいと思わせられた。

もちろんご存知のように、マルツァルのコンセプトはその後、1968年にエスパーダという市販モデルに発展した。ただしエスパーダはフロントにV12を縦置きした2+2である。

「美しい車だったが、いわば手堅く古典的な車だった」とダラーラは言う。「できる限りマルツァルの姿を維持しようとしたが、V12をフロントに積むという決定によってインテリア空間とプロポーションを変更せざるを得なかった。ガルウィングドアを守るためにできるだけのことをしたが、それは重く製作し難く、さらにコストがかかった。またエンジンをクリアするためのボンネットの高さのせいで、まるで合わないかつらのように見えたんだ」

今、スイスのノイシャテルで開催されたランボルギーニ・コンコースで「ベスト・オブ・ザ・ベスト・トロフィー」に輝いたばかりのマルツァルを眺めていると、心からその復活を祝福する気持ちになる。マルツァルが最も華麗なカップルの心を魅了し、最も有名なショーカーとして世界を驚かせた1967年モナコのあの魔法の日を思い出さずにはいられないのだ。


1967年ランボルギーニ・マルツァル
エンジン:1964cc、直列6気筒DOHC、ウェバー40DCOEキャブレター×3基
最高出力:175ps/6800rpm 最大トルク:132lb-ft/4600rpm
トランスミッション:5段MT、後輪駆動 ステアリング:ラック&ピニオン
サスペンション(前/後):ダブルウィッシュボーン、コイルスプリング、
テレスコピックダンパー、アンチロールバー
ブレーキ:4輪ディスク 車重:1210kg

編集翻訳:高平高輝 Transcreation:Koki TAKAHIRA Words:Massimo Delbo Photography:Max Serra

無料メールマガジン登録   人気の記事や編集部おすすめ記事を配信         
登録することで、会員規約に同意したものとみなされます。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

RANKING人気の記事