ロードスターとして使用されていたブガッティ・タイプ51の再生物語

Photography: Matthew Howell Archive Photographs: Adriano Cimarosti



「少し考えましたが、それから20年間、私の心の奥にずっと残っていました」1996年、スコー・ニールセンはマルメに戻り、ソーダーストロムの息子ラースからロードスターを買い取った。

一見して、アラン・ソーダーストロムのもとでは、車は自力で動いたことはなさそうにみえた。バッテリーによって腐食が起こり、古くなったガソリンがタンクに残っていた。1961年付のデンマークの古新聞が、スペアホイールの後ろから見つかった。しかし、このT38シャシーNo.38239と記したデンマークの車両登録証にもかかわらず、実際にはT51Aのシャシーだった。しかしどの車体だというのだろうか。ヘンリク・スコー・ニールセンはブガッティ歴史家ピエール・イヴ・ロージエに相談した。

明らかになったのは、ブガッティから販売された1.5リッターのT51Aの1台が実は新車ではなく、すべて既存の車から組み立てられていたことだ。ロージエは、そのほとんどは解体されたと付け加えた。ロージエは彼のアーカイブを慎重に調査し、シャシーフレームに開けた穴の位置を比較したところ、一致したT51Aは、アン・イティエが所有していた" 51142" であると判断した。



さらなる確証は、リアクロスメンバーに刻印された"307" の番号で、これから"シャシー4827" と関連付けられた。デンマークに飛び、この車を診察した有名レストアラー、テリー・カーディーによって明らかになった。シャシーへの唯一の修正は、フロント側面を支援するリヤ側のエンジン・マウントおよびブラケット用に取り付け位置の加工が行われ、新しいボディが装着された時点で、ツーリングモデルのT44/T49用ステアリング・ボックスがオリジナルと交換されていた。ブレーキはワイヤ式から油圧に変換され、軽合金ホイールからワイヤホイールへ変更されているが、それらを除きシャシーは標準の仕様が保たれていた。

これらの情報を元に導かれた決断は、かつてのグランプリ仕様に車を戻すことだ。1930年代のレース界で並外れた成功を収めた女性へのオマージュとして。シャシーのレストアでは、すべての既存の穴(2座ロードスターボディに関連するものを含めて)は、 車の歴史を物語る証左として残された。作業中には、1935年8月のアン・イティエの事故の痕跡も見つかった。シャシーの前面に被害を受けおり、事故で曲がった最先端のクロスメンバーを修復した跡が残っていた。ここには、今回の作業で強化を施した。 

"シャシー37379" に架装されていたオリジ
ナルのグランプリボディは、2008年になって手に入れることができた。このボディは、同じようにスポーツロードスターに載せ替えられていたT37Aに架装されてアメリカで生き残り、1960年代初頭にスイスのブガッティ愛好家、ハンス・マッティによって救い出されていた。
 
適切なパワーユニットを見つけるまでには、
10年間を要した。失われたT35B(4943)、の主要なエンジン・コンポーネントの一部が、もうひとりの伝説的女性ドライバーであるエリザベート・ユネックのためのスペアとして、チ
ェコ共和国で保管されていたことが判明した。

クランクシャフトのストロークはT51Aの66
㎜ではなく、100㎜が装着されていたので、エンジンのレストアについては、できるだけ多くのオリジナル・パーツを使い、2.3リッターのT51ユニットを再現することとした。

作業はイギリスのツーラ・エンジニアリングがシャシーとエンジンのレストアを担当し、ボディのレストアはリチャード・スキャルドウェルが担当した。スコー・ニールセンは語る。

「ほとんど人には、輝くようなレストアと"わざとらしいエージング" の微妙な違いなど理解できないものです。でも結果は素晴らしい仕上がりです。今はただ、完成を待つばかりです。T51Aが歩んできた歴史がそのまま残されているようなクオリティです」
 
展示のために、T51のオリジナル・アロイホ
イールを1セット、ディック・クロスウェイトから入手した。ブガッティの2人のワークスドライバー、マルセル・ルーとピエール・ヴェイロンの名前が刻印されたものだ。そして、走行用にはオリジナルのT35ホイールを用意した。

T51のレストアが進むにつれ、スコー・ニールセンは、ロードスターボディを作り直し、そのT38エンジンを新しいフレームに搭載しようと決意していた。

「このアール・デコのロードスターボディも日の目を見ないままにするにはもったいない素晴らしさです」と語っている。アイヴァン・ダットン社によってレストアされたエンジンに、経年変化と事故によって非対称になったボディは注意深くリビルドされた。2013年2月、レトロモビルでの披露のために、ロードスターはパリへ帰った。

そして、7月にはグッドウッド・フェスティバルで開催されるカルティエ・スタイル・エ・リュクス・コンクールのために英国へ渡った。

ついに、両方の記念すべきブガッティが初めてともに姿を現した。9月のグッドウッド・リバイバル・ミーティングで、マダム・イティエに扮した若い女性を伴い、復元されたコントロールタワーの建屋の前に並べられた。当然のように、このユニークな分身ブガッティの2つの性格をもつ注目すべきレストアは、オクタンおよびEFGインターナショナルのサポートする2013年国際歴史モータリング賞、イヤークラスのレストア・オブ・ザ・イヤーに選考された。歓喜のスコー・ニールセンは「最高の成果となったレストアでした」と語った。

編集翻訳:崎山知佳子(office Sky M) Transcreation: Chikako SAKIYAMA (office Sky M) Words: David Burgess-Wise  

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