約半世紀の間、破壊されたまま放置されていたエンジンが、今再び轟く。

Photography: National Motor Museum



2006年にエンジンリビルトにゴーサインが出るまでは、このままの状態であった。ビューリーのシニアエンジニアであるイアン・スタンフィールドは、興味と不安におののきながらエンジンヘッドを開けた。もっと悪い状況を想像していたが、ダメージは案外に限定的であった。2つのピストンと1セットのコンロッド、そしてクランクケースとオイルパン。サンビーム・タルボット・ダラックレジスターは部品探しから必要な資金の調達にいたるまで、全面的な強力を惜しまなかった。

酷く破壊されていたコンロッドは最も難物で、設計図はあるにはあったが航空機エンジンとしては珍しくなくても、車には極めて珍しいものであった。ひとつのシリンダーバンクにキングロッドとクランクジャーナルがマウントされたビッグエンド。他方のバンクはキングロッドの脇のベアリングに連結したスレイブロッドで作動する。奇妙な点はそれぞれのバンクは異なるストロークをもつことで、片方は135㎜、他方は142㎜。これでは排気量を間違えてしまいそうだが記録では18,797㏄となっている。コンロッド製造のスペシャリスト、アローがそれを複製した。またピストンは米国のヴェノリアピストンズ製のものに交換された。

このチョイスに失敗はなかった。航空機エンジンとしての特徴はあらゆるところに見て取れた。中空の軽量クランクシャフトからエクゾーストロッカーアームの肉抜き加工。そしてボルトのサラモミ加工。またエレガントなカムトレインの11個のドライブギアは、美しいがタイミングマークがなくて。それぞれが別体でしかも二つのブロックをまたいでいるカムの組み立てはハードだった。ベアリングの芯出しはシャフトがフリーにまわるまでヘッドの頂上の軸受けのシミングを必要とした。



スタンが指摘した通り、このユニットは完全なワンオフなのでエンジンのリビルト作業は発見の連続だった。しかも彼のチームは彼ら独自のワークショップマニュアルを編纂するために、多くの時間を費やさなければならなかった。

1月のナショナルモーターミュージアムでは、イヤープラグで武装した群衆が、8年近いレストアの末に蘇ったサンビーム350hpの登場を今や遅しと待ち受けていた。ミュージアムのエンジニアであるティム・エジャートンとマイケル・ジレットは、勇敢にも二人でエンジンをハンドスタートすることに決めた。3回転半の後、19リッターのV12エンジンはおごそかに目覚めたが、モンスターとしてはほとんどあっけないスタートだったとも言える。オープンヘッダーからの出火もなければバックファイアもない。イヤープラグも不要。エンジンの水温が上がるにつれ、スタンは回転を緩めた。スムースなインプレッション、コントローラブルなパワー。期せずして群衆から拍手がわき起こった。

「素晴らしい。なんてマシンなんだ!」

編集翻訳:小石原耕作 Transcreation: Kosaku KOISHIHARA Words: Charles Armstrong-Wilson

無料メールマガジン登録   人気の記事や編集部おすすめ記事を配信         
登録することで、会員規約に同意したものとみなされます。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

RANKING人気の記事