ポルシェのレース史に残るレジェンドマシンを試乗!│常識外れの1台

1974 Porsche 911 Carrera RSR Turbo 2.1(Photography:Alex Tapley)



「このマシンが信じられないほどドライバー・フレンドリーであることは間違いないね」ピットに戻ってきたジョーが語る。彼はいままでに3.0RSR、935、956、962といったポルシェ・レーシングカーの名作を操った経験を有しているが、RSRターボ2.1を走らせたのは今回が初めてだという。「苦もなくドライブできるのは、これが耐久レースのために生まれたマシンだからだろうね。クラッチは重いけれど、ペダルストロークが長いのでエンジンをストールさせにくい。ギアボックスの感触もいいね」

「ハンドリングのキャラクターもわかりやすい。だから、ドライバーが裏切られることもないはず。ステアリングはパワーアシストがないのに軽い。フロント荷重が小さいから、それも当然だね。それでもアペックスを捉えるのは難しくないよ」

肝心のエンジンはどうだったのか?「ターボラグは思ったよりも小さかったけれど、そのことは常に意識してなければいけないね。低い回転数からブーストがかかり始めるので、エンジン回転数を高めに保っていれば大丈夫。エンジン特性は956とよく似ている。パワーをかけ過ぎればホイールスピンを起こすけれど、このワイドなスリックタイヤは、コーナーからの脱出速度や最高速度という面で、3.0RSRに対する大きなアドバンテージとなったはずだね」

「コクピットのなかはきっと暑かっただろうと思う。ゆっくり走っているときは寒いくらいだったけれど、ペースを上げるとキャビンの温度は次第に上がっていった。これで6月のフランスを走るのは、さぞかし大変だったはずだよ」

ル・マンでの2位は文句なしに素晴らしい結果だが、ジイズ・ヴァン・レネップとメルベルト・ミューラーは表彰台の頂点に上ったとしてもおかしくなかった。同じポルシェからエントリーした"R12"はスタートから8時間が経過したところで「エンジンルームからの出火(実際には最高速付近で起きたクランクシャフト・トラブルによるエンジンブローだった)」のためリタイア。順調に周回を重ねるR13は、トラブルのため次々と戦列を離れていくライバルたちを尻目に、次第に順位を上げていった。レースが残り6時間となったとき、R13は2番手まで浮上。トップを走るのはアンリ・ペスカローロとジェラール・ラルースが操るトップのマトラ・シムカだ。ところが、そのギアボックスにトラブルが発生する。

皮肉にも、マトラが使っていたのはポルシェ製ギアボックスだった。そこでポルシェはふたりのスペシャリストをマトラのピットに派遣し、作業を手伝わせた。トラブル発生から45分が過ぎたところでマトラは修復を終え、コースに復帰。このときまでに、R13はマトラと同一周回まで追い上げていた。すると、今度はRSRターボに同様のトラブルが発生。それでもR13はようやく2位でチェッカードフラッグを掻い潜ったのである。

この年、R13はさらに3レースに出場。レネップとミューラーはワトキンスグレン6時間で再び2位となるが、このときもウィナーはマトラだった。続くポールリカール1000kmは7位、そしてブランズハッチ1000kmは5位でフィニッシュ。こうしてポルシェは、この年の世界スポーツカー選手権で総合3位の座を勝ち取ることになった。

翌1975年にはレギュレーションが改正されたため、ポルシェは新たなレーシングカーを開発。R13はプライベティアの手に渡り、77年にデイトナ24時間(ピストン・トラブルでリタイア)とミドオハイオ3時間(26位)の2レースをシンプルなシルバーのボディカラーで戦った。幸いなことに、このカラーリングはラッピングによるもので、マルティーニ・カラーはその下側で生き延びていた!ちなみに、それ以外のRSRの行方はといえば、R12は現在もポルシェ所有で、R5とR9はコレクターの手に渡っている。

カレラRSRターボで、ノルベルト・ジンガーはそのキャリアをスタートさせたといって過言ではない。常識外れのスタイリングが与えられた"911ターボのプロトタイプ"は、さらに過激なスポーツプロトを生み出す礎となり、それらは935を筆頭に数多くの成功を収めていった。そして、この935をベースにグループCの956や962が誕生し、ポルシェは1980年代のル・マンで黄金期を築くことになる。

RSRターボ以降のポルシェ・レーシングカーは、最新の919に至るまで、その多くがターボエンジンを搭載してきた。その意味からもRSRターボが歴史に残る1台であることは間違いないだろう。



1974 Porsche 911 Carrera RSR Turbo 2.1
エンジン:2142cc、空冷、OHC水平対向6気筒、
ボッシュ製機械式燃料噴射、KKKターボチャージャー×1基
最高出力:450〜500bhp/8000rpm(推定) 最大トルク:405lb-ft/5400rpm
トランスミッション:5速MT、後輪駆動、タイプ915トランスアクスル
ステアリング:ラック&ピニオン
サスペンション(前/後):箱形断面アルミ製ダブルウィッシュボーン、
プログレッシブレート・コイルスプリング、ビルシュタイン・ダンパー、アンチロールバー
ブレーキ:ベンチレーテッドディスク 車重:828kg
最高速度:185〜190mph(約296〜304km/h 推定)

編集翻訳:大谷達也 Transcreation:Tatsuya OTANI Words:John Barker Photography:Alex Tapley 取材協力:グッディング&カンパニー(http://www.goodingco.com)

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