21台のランボルギーニとイスレロが走る│猛牛のアニバーサリー・ツアー

Photography:Rémi Dargegen

2018年はランボルギーニ・エスパーダとイスレロがデビューしてからちょうど50年であった。それを記念して開催されたオーナーのツアーにマーク・ディクソンが参加した。

それは骨の折れるような仕事ではなかった。それどころか、たいへん光栄なことに、かつてランボルギーニ・エスパーダを共同所有していたためか(自宅を担保にして友人であり『Octane』の寄稿者でもあるリチャード・ヘセルタインと共同で買った)、エスパーダとイスレロの生誕50周年を祝う公式ツアーに『Octane』の代表として招かれたのである。もちろん、このツアーがオーナーのためのイベントであることは言うまでもない。彼らは皆相応の費用を払って参加しているのだ。だが、ありがたいことに私のような部外者が潜り込んでいることに疑いの眼を向ける人はひとりもいなかった。

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そんな大らかさこそ、エスパーダとイスレロのオーナーに共通する特長ともいえる。彼らは、くだけた言い方をすればまるで"お高く"止まってはいなかった。ある参加者など、あなたは何台ランボルギーニを所有しているのか?と訊ねたところ、「80台ぐらいかな」とごく真面目な顔で応えてくれたものだ。

ランボルギーニのクラシック部門であるポロストリコから参加した数台を含め、参加車は全部で21台(そのうちエスパーダが17台、イスレロが4台)で、ヨーロッパ全土から、それこそキプロスやノルウェーなどの遠隔地から集まってきた。驚くべきことにイタリアからの参加者はなかった。どうもイタリア人は、このようなイベントを自国では行わないようだ。



ペルージアの五つ星ホテル「ブルファーニ」は、ウンブリアの素晴らしい風景を眺望する丘の上に建つ19世紀の建物で、その前庭に勢ぞろいしたランボルギーニはまるで虹のような光景を生み出していた。ローズピンクや明るいイエローから鮮やかなメタリックグリーン、オレンジがかったレッドまで、あらゆる色が眩しく輝くその眺めは、ランボルギーニ以外のブランドではありえないだろう。たった1台のエスパーダでも興奮するのに、それがずらりと並んでいるのだからまったく我を忘れてしまうような眺めである。これほど多くの車が一堂に会するのは、おそらく工場をラインオフした新車がディーラーに送られるのを待っていた時以来のことではないだろうか。

エスパーダは、いわば"マーマイト"(訳註:英国では一般的なトーストなどに塗るペースト)のように好き嫌いがはっきりしている車だ。どちらでもいいと無関心ではいられない。何十年もの間、エスパーダはスーパーカー・ピラミッドの下の方に置かれていた。ミウラのようなグラマーなボディを持たないにもかかわらず、ランニングコストはミウラ並みとコレクターから疑いの眼を向けられていたのだ。ありがたいことに、そんな状況は徐々に変わってきており、多くの人がエスパーダは4人の乗員とその荷物を楽に呑み込む、真のグランドツアラーであると認めてくれるようになった。しかも"サンダーバード"で有名なジェリー・アンダーソンのTV番組に出演するマシンのような、エキゾチックで奇妙なルックスを備えている。そしてさらに、このツアーが証明するはずだが、タフで頼もしい車でもある。たった10年ほど前までは、ランボルギーニの収入のほとんどはトラクター製造が生み出していたことを忘れてはいけない。

改めてエスパーダを知ることはもちろんだが、やはりそれよりも興味を抱いていたのはイスレロのほうだった。この2+2クーペは、同年輩でより大きなイスレロよりもずっとめずらしい猛獣である。覚えている人は少ないかもしれないが、ロジャー・ムーアが主演した1970年のSF映画『The ManWho Haunted Himself』(邦題は悪魔の虚像/ドッペルゲンガー)の中で重要な役割を果たしている。エスパーダに比べれば"常識的"な姿をしているが、それでもなおV12エンジンや4本のテールパイプ、アロイホイールにノックオフ・スピナー、ポップアップ・ヘッドライトにふんだんのクロームトリムという、夢のグランツーリスモに相応しい特徴をすべて備えている。

そんなわけだから、あまり見苦しくないように、だができるだけ早く、ポロストリコから参加した豪勢なロッソ・アマラント(前述のローズピンク)に塗られた1968年式のイスレロに乗り込んだのは言うまでもない。こんな色は古いキャディラックでしか見たことがない。クラシックカー・ジャーナリストとして30年は活動してきたが、これまで私はイスレロを運転したことがなかった。何しろ、イスレロは1968年から70年までにわずか225台しか作られなかった。エスパーダの総生産台数(1968~78年に1227台)の1/5以下というめずらしいモデルなのである。

編集翻訳:高平高輝 Transcreation:Koki TAKAHIRA Words:Mark Dixon 

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