速度記録を樹立した1台のイギリス車とは?│その乗り味を堪能する

1953年トライアンフTR2(Photography:Paul Harmer)



こうした過程を経て、TR2として1953年3月のジュネーヴショーでデビューを果たした。これら2台の20TSがどうなったか。当時のスタンダード・トライアンフ社がその正確な記録を残そうとしても、情勢の変化が早すぎ、かつ予算は限られていた。「おそらく彼らは何も廃棄してはいないだろう。単純に資力がなかっただけだ」とヒューエットは言う。

リチャードソンが記録挑戦のためにプリプロダクションのTRに白羽の矢を立てた時、その素材はどこから入手したのだろうか。ヒューエットはスペシャルボディと、他に例のない美しいボンネットバッジや特製ボディパネル、リベット留されたパーツ、リアトレーリングアームの片側だけのカバープレートなどの手仕事の跡から、MVC575は2台の20TSの1台から製作されたと確信した。ピゴットもこの意見に賛同した。

彼が手に入れた車は、TR2にコンバートされた2台の20TSプロトタイプのうちの2番目だった。1番目は未完成だった20TSをベースとしたもので登録番号はMWK950。これにはオリジナルのログブックが残っていて、それによれば最初の登録はMVC575の2カ月前の1953年1月。すなわちこちらがコンバートされた最初の車だったということになる。ORW6663という3番目のプロトタイプもあった。しかしそのRHDは20TSをベースとしたものではなく、それがどうなったのかは不明だ。

「当然MVC575はもっとも重要な車だ。それは量産型の2リッタースポーツカーが速度記録を更新できると証明し、トライアンフの知名度をその後30年に渡って拡大したのだからだ」

レストアが完成したMVC575は、2017年3月6日の午前5時、ロンドン、セントジェイムスのRAC(ロイヤルオートモビルクラブ)の円形ホールに運びこまれ、1週間にわたって展示された。記念のクラブディナーの席でRACのチェアマン、トム・パービスはこの車を「トライアンフが製造した中で最も意義深い車」と紹介した。実は、パービスは前BMW UKとロールス・ロイスのヘッドの座にあり、ヒューエットが用意したTR3Aでヒルクライムを行い、トライアンフに魅せられてしまっていたのだった。「私は個人的な理由でトライアンフが好きである。彼らは戦後の英国が苦しい時期に輸出に大きく貢献し、またイタリアのデザインハウス、ミケロッティを起用するなどとても先進的だった。このようなことは英国自動車産業の功績としては認められていない部分である」と語った。

興味深い補足説明を追加しておこう。BMWは1994年にローバーとともにトライアンフの商標も手に入れていて、BMWがいつの日かこの価値ある有名ブランドを使用する日が来るのかもしれない。特に、あまりヒストリーが魅力的でないスポーツカーのような場合、例えばBMWとトヨタの共同開発による新型Z4などがその例となるかもしれない。MVC575の功績がそれらに影響を与えないと誰が言い切れるだろうか。しかしどんなアイデアが出てこようと、私たちの目の前にあるような、重要なレコードブレーカーのようであってほしい。


1953年トライアンフTR2
エンジン:1991cc、直列4気筒、OHV、SU H4キャブレター×2基
最高出力:90bhp/4800rpm 最大トルク:117 lb-ft/3000rpm
変速機:前進4段MT、後輪駆動 ステアリング:ウォーム&ペグ
サスペンション(前):ダブルウイッシュボーン、コイルスプリング、テレスコピックダンパー
サスペンション(後):リジッド式、半楕円リーフスプリング、レバー式アームダンパー
ブレーキ:ドラム 重量:955kg
性能:最高速度=120mph、0-60mph=11.9秒

編集翻訳:小石原耕作(Ursus Page Makers) Transcreation:Kosaku KOISHIHARA (Ursus Page Makers) Words:Andrew English Photography:Paul Harmer

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