すべてのコレクターが一台は所有すべき最高に贅沢な車とは?

Photography:Charlie Magee

世の中のリムジンは多くがその高級感と伝統の様式に於いてロールス・ロイス ファンタムV(Five)を踏襲している。この特別な"ブランド"についてのエキスパートであるポール・ウッドが、すべてのコレクターが一台は所有すべきだというその理由を語る。

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「過小評価に過ぎる」と、ロールス・ロイスのスペシャリストでありエンスージアストでもあるポール・ウッドはいう。「皆これを巨大で鈍重なリムジンだと思っていて、コレクターたちは敬遠します。しかし、ロールス・ロイスをコレクションするのであればファンタムVは欠いてはいけないモデルです⋯」

それを我が目で確かめるために、クリスマスを前に久しぶりに晴れわたって、キリッと冷たい空気のこの日、イーストアングリア地方の広大な空の下に広がるグレート・イースタン村までやってきたのだ。そこは、何かとてつもなく大きな亡霊(ファンタム)のような存在が与えたとしか思えない村だ。その、静かで暖かく居心地のよいジョージアンスタイルの客間で、ポールは私を必ず納得させようとしていた。彼の考えでは、ファンタムは過去最も素晴らしいロールス・ロイスなのだ。

「これはエレガントで高品質、そして優雅さを体現している。
重要な人物達のためのリムジンとして絶対的頂点を極めたものだ」と、ウッドは語りはじめた。実に力強い言葉ではないか。それに先立ち、ポールは初めての彼を訪ねてきた者にそうするように、彼の本拠地であるP&AウッドLtdの施設を案内してくれた。そこは、彼が弟のアンディとともに半世紀以上かけて作り上げたロールス・ロイス帝国であり、ロールス・ロイス社が自社に代わって事故車修理を行うことを認めた英国内で唯一の施設である。同社ではコーチビルドさえも行っている。



また、ポールの出自がロールス・ロイス航空機エ
ンジニアであることを示すように、ロールス・ロイスのレシプロエンジン中で最も成功を収めた液冷V型12気筒のマーリンエンジンとWOベントレーの初期の傑作である星型9気筒のBR1エンジンを展示した部屋もある。ポールの案内によるワークショップとショールームの見学は、まるでロールス・ロイス歴史学の個人レクチャーのようだ。ポールはここにある車の裏表をすべて知り、さらには全ロールス・ロイスについての深い知識がある。彼がロールス・ロイスについて語るなら、私はなんでも聞くだろう。

最近の金持ちや、はたまた悪政の独裁者なら、BMWが設立したロールス・ロイス・モーターカーズ社が開発し、2003年から2017年まで販売された"ファントムⅦ"や"ファントムⅧ"という最新モデルを買うかもしれない。ドイツ資本に買収後に開発されたモデルだが、連番は継続というわけだ。だがその内容はほとんど継承されてはいない。

ヴィッカース時代最後のファンタムだったⅥは、1991年に製造終了となった。ファンタムⅠはシルバーゴーストが製造を終了した4年後の1929年に登場するが、それ以来、ロールス・ロイスのフラッグシップとして最高峰のモデルであり続けた。最初の2モデル、ファンタムⅠとⅡは直列6気筒エンジンを搭載していた。

1936〜1939年のファンタムⅢは、1998年に登場したシルバーセラフ以前では唯一のV型12気筒を持つ。シリーズ中で最もレアなのは、シルバー・レイスの直列6気筒をベースにして8気筒化したエンジンを備え、プリンセス時代のエリザベス女王にデリバリーされたファンタムⅣだ。ロールス・ロイスの社内用を含めて18台のみが造られ、そのうち16台が現存する。これはファンタムⅣの購入資格を王族と国家元首に厳しく制限し、ベースとなったシルバー・レイスを一般顧客用とするよう、故意に限定数としたためだ。

世界で初めて御料車をお買い上げになったのは、1900年に英国王子時代のエドワード7世で、その栄誉はデイムラーが授かったことで、これ以降、英国王室はデイムラーを乗り継いできた。だが、プリンセス・エリザベスがこの伝統をあえて破って、デイムラーではなくロールス・ロイスを発注されたのには訳がある。当時の英国は、「輸出か死か」といわれる戦後復興の最中にあり、世界的にはデイムラーより知名度の高かったロールス・ロイスの販売をサポートしなければならないというのが、その理由だったと言われている。

それまでに、長年にわたって築き上げられた高級リムジンの様式を継承し、それら旧弊とも言われる作法や排他性を引き継ぎながら、空調やパワーウインドウ、また逞しいがスムーズで控えめなV8エンジンなどの最新装備を融合させたファンタムⅤは、1959年に登場した。『AUTOCAR』誌の表現によれば、それは「現代のビジネスと政界において重要な顧客とエクゼクティブが必要とする真に贅沢な移動手段」だった。その広大な空間は、平均的な現代の車に乗り降りして窮屈さを感じていた買い手たちを強く惹きつけたことだろう。

編集翻訳:小石原耕作(Ursus Page Makers ) Transcreation:Kosaku KOISHIHARA( Ursus Page Makers) Words:Glen Waddington 

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