誰もが手に入れたいと思うイタリアの華│ランチア・アウレリア スパイダー

1955年ランチア・アウレリア B24"アメリカ"(Photography:Charlie Magee)

ランチア アウレリアは、誰もが手に入れたいと思うイタリア車の1台だ。そしてB24スパイダーはその中でも格別の人気を誇る。アンドリュー・イングリッシュがその魅力を探る。

アウレリアが現れると、私はライオンの鼻を思い出す。大きなウィンドスクリーンの下からグリル先端へと突き出したボンネットのカーブが、雌ライオンの鼻口部のように見えるのだ。車全体からも、鬱蒼とした茂みから見え隠れする優美でありながら危険なその姿が思い起こされる。

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そのプロポーションは言葉にならないほど美しく、爪ではじいただけでも簡単に崩れてしまいそうだ。リアウィングがあと1インチ高かったり、あるいは角ばったりすれば、このランチアの美しさはヘンリー・ライダー・ハガードの『洞窟の女王』に登場する生命の精、アッシャのように消え去ってしまうだろう。パーツはまるでコミカルなレプリカのようだ。たとえばウィンドスクリーンは、リーヴァ製のボートを彷彿させる。そして午後の太陽に向かって走らせると、トランクやリアウィングの辺りを「バットマンカー」のような影が追いかけてくる。ルネサンス時代からイタリア人は、ひとつひとつ自体はさほど美しいとは言えないものから、醜さとそれに比例した美しさとの絶妙なバランスを生み出すことに非常に長けている。

「アウレリア」は、ローマからピサに至る古代ローマの街道から名付けられているが、この街道の名前はラテン語のアウレウス(ゴールド)に由来する名字、アウレリウスの女性形からとられたものだ。アウレリアと聞けば、数々の名車が思い起こされる。1950年に登場し、生産型自動車では世界初となるV型6気筒エンジンを搭載し、リアにトランスミッションを配置したトランスアクスル方式にインボード式リアブレーキを組み合わせた初代モデルは、その時代のトライアンフやオースチン・ヒーレー、ジャガーやACにまでもかなりのダメージを与えた。

アウレリアには、さまざまなボディタイプが用意された。大まかにいえば、ベルリーナ(B10)とその派生モデル、ショートホイールベースのB20クーペ、コーチビルダー向けのプラットフォーム(B50)に分類される。8年間にわたるアウレリアシリーズの合計生産台数はわずか1万8201台で、そのうちで現在残っているのは1050台程度と考えられている。

B24スパイダーは1954年のブリュッセル・ショーでデビューを果たした。B20よりホイールベースが短縮されたシャシーに、ピニン・ファリーナの手になるボディを架装したモデルだった。B24スパイダーの生産台数は約240台で、うち59台が右ハンドル、181台が左ハンドル仕様だった[編集翻訳註:左ハンドル仕様はB24S。Sは伊語で左(sinistra)を示す]。

1956年7月、貨物船「アンドレア・ドーリア」がニューヨークへ向かう途中、客船「ストックホルム」と衝突し、ナンタケット島沖に沈んだ際に、50台が失われたという噂がある。これに対し「ばかげている」と異論を唱えるのは、長年B24スパイダーを所有するアンソニー・ハッセイだ。ハッセイはこの車で、ありとあらゆる経験をしてきた。ル・ジョグ・ラリーでアウレリアを大破させてしまい、大規模なレストアを余儀なくされたこともある。半世紀以上にわたって彼が所有しているB24は、ミッレミリアに参戦したヒストリーを持つ2台のうちの1台という逸品だ。

ハッセイはアンドレア・ドーリアに関する噂が作り話であることを証明するまぎれもない証拠を挙げている。1950年代。エレガントな外観のオープンモデル。アメリカ市場。この3つの要素を組み合わせて思い浮かぶのは、ニューヨークを拠点とするオーストリア生まれのインポーターでありコレクターでもある、やり手のマックス・ホフマンだ。彼は、戦後の裕福な若者たちや、ハリウッドに住む上流階級の人々が、2座の高級スポーツカーに飛びつくに違いないと予想。メーカーも予想できなかった大量注文を出すと、前代未聞の販売実績を残した。

BMW507、アルファロメオ・ジュリエッタ、メルセデス・ベンツ300SL、ポルシェ356スピードスターなどは、彼の揺るぎない自信がきっかけとなって生まれた名車である。ハッセイのリサーチにより、ホフマンが代金を前払いしたこの50台のアウレリアB24は、アンドレア・ドーリアが沈没する1年前に船積みを終えていたことがわかった。

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo. 原文翻訳:渡辺千香子(CK Transcreations Ltd.)  Words:Andrew English Photography:Charlie Magee Thanks To hexagon Classics, www.hexagonclassics.com

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