誰もが手に入れたいと思うイタリアの華│ランチア・アウレリア スパイダー

1955年ランチア・アウレリア B24"アメリカ"(Photography:Charlie Magee)



初期モデルが劣っていたわけではない。最初のアウレリアはそのままで充分に速く、その世代で最も優れたハンドリング性能を誇る車の1台だった。1951年、ジョヴァンニ・ブラッコは、土砂降りのミッレミリアにB20GTワークスカーで参戦し、総合2位、クラス優勝という衝撃的な結果を残した。ピエモンテ州生まれの彼は、運転に関しては無鉄砲ではあるものの生まれながらにして素晴らしい才能を持っており、ポマードで撫で付けた髪と、黄色い歯(酒とポール・モールが好きなチェーンスモーカーだった)を特徴とする当時の典型的なイタリア紳士だった。1938年にフィアット1500スパイダーでミッレミリアに初エントリーし、1950年にはフェラーリ166MMで4位に、1952年にはフェラーリ250Sで勝利を果たした。

1951年は、ウンベルト・マリオーリがコ・ドライバーとして乗り込んだ。マリオーリは、ブラッコが雨の中を13時間ぶっ通しで小さなランチアを巧みに走らせる中、火のついたタバコを渡すなど、なかなか楽しい一日を過ごしたに違いない。ルイジ・ヴィロレーシが扱いにくいフェラーリ340アメリカで2位との差をようやく広げることに成功したのは、北に戻る途中のフィレンツェを通り過ぎた後のことだった。ブラッコは、アウレリアをゴールに滑りこませるとワインボトルをつかみ、一気に飲み干したという。

B20GTが大物食いであったとすれば、アメリカとも呼ばれるシリーズ4のGTをベースとしたB24スパイダーは、映画スターだった。ピニン・ファリーナによってホイールベースが185mm短縮されたシャシーにピニン・ファリーナが美しいスパイダーボディを架装してみせた。それには、第4世代アウレリアに施された改良点のすべてが盛り込まれ、2.5リッターエンジンは、Vバンクの谷間に備えられた1基のウェバー製キャブレターによって118bhpを発揮した。車重は1054kg、最高速度は控えめで115mph(185km/h)、0-100km/h加速は11.5秒だった。

「数字では語れない、そのスタイルが魅力なのです。スライディングピラーのフロントサスペンションとV6エンジンによって、完璧なバランスが保たれています。カーブの多い道路で、ジャガーXK140を置き去りにできます」そうハッセイはいう。

トランスアクスルを採用したことによって、完璧な前・後軸の重量配分が実現している。大きなペダルと大径のステアリングホイールを備え、トランスミッショントンネルの右側から巨大なギアレバーが突き出し、B24は驚くほど男性的な車だ。

1923年、イタリアは正式に左側通行から右側通行へと移行しているが(ローマでは1925年に、ミラノでは1926年に移行)、第二次世界大戦後も右ハンドル車の人気は続いた。アウレリアのギアチェンジは、機構的に右ハンドル車の操作系により適している。ギアチェンジは、トランスアクスルへ戻る入り組んだルートを考えれば、実にスムーズだ。

その他のインテリアは、現代の車両デザインでは忘れ去られてしまった魅力とシンプルさを備えている。エンジンがカラカラと音を立てて始動し、美しいマフラーからは、唸るようなテノールパイプ・サウンド奏でられる。それほど軽量でもなく高回転型でもないが、V型6気筒ユニットはバイタリティーと、どっしりとした存在感を与えている。

ハッセイがヨーロッパ大陸を何千マイルも運転していたときは、平均8.8km/Lだったが、新しい改良ジム・ストークスエンジンを搭載している現在は、7.8km/Lほどだという。「2500マイル毎にフルサービスが必要です」と、走らせるには高額な費用がかかることを彼は認めている。

B24を探している人へのアドバイスを聞いてみた。「初めて購入するのであれば、購入前に英国なら、ウォータールーヴィルのジム・ストークスやノリッチのオミクロンエンジニアリングなどのエキスパートに見てもらった方がいいでしょう。ブレーキは忍耐強く、しっかりと慣らしてください。トランスミッションの振動は、プロペラシャフトのセンターベアリングの遊びに注意すれば治まります。必ずホイールバランスを取ってから調整してください。ちなみにヒーターは見栄えは最高ですが、役に立ちません」

B24は、近年、高額な価格で取引されるようになったが、果たしてその価値があるのだろうか。1955年の終わりにはジャガーXK140の2倍近い3173ポンド、現在の価値に換算すると約7万2700ポンドという価格がつけられた。この記事で紹介した赤いB24は、3番目に生産されたB24と見られており、ヘキサゴン・クラシックスで販売されている。

ハッセイは慎重に言葉を選びながらこう話してくれた。

「去年アメリカで売却されたものは、100万ポンドを優に超えていました。品質にもオリジナリティにも非常にこだわる人によってレストアされた特別な車だったため高値で売却されたのです。今では、誰もが同じような値段で売れると思っていますが、必ずしもそうしたことはありません」

ハッセイは状態が良好な車で75万ポンド前後だろうと考えており、これがほぼ妥当な線だと思われる。希少で、スピードも速く、リラックスしながら快適な走行ができるだけでなく、見た目も非常に美しい。これがクラシックカーに求める要素ではないだろうか。そう考えれば、このランチアは申し分がない。


1955年ランチア・アウレリア B24"アメリカ"
エンジン形式:2451cc、V型6気筒、OHV、ウェバー製40DCZ5キャブレター×1基
最高出力:118bhp/5000rpm 最大トルク:17.6kg-m/3500rpm
変速機:4段MT、トランスアクスル方式、後輪駆動
ステアリング:ウォーム&セクター

サスペンション(前):スライディングピラー、コイルスプリング、
テレスコピックダンパー

サスペンション(後):ド・ディオン式、パナールロッド、
半楕円リーフスプリング、テレスコピックダンパー

ブレーキ:ドラム、インボード(リア) 車重:1054kg
最高速度:115mph(185km/h)0-100km/h:11.5秒

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo. 原文翻訳:渡辺千香子(CK Transcreations Ltd.)  Words:Andrew English Photography:Charlie Magee Thanks To hexagon Classics, www.hexagonclassics.com

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