ぶっ通しで4日間走り続ける過酷なヒストリックカー・ラリーに参加

Photography:Francesco Rastrelli, HERO



土曜日の朝6時、いよいよル・ジョグのスタートだ。高ぶる私を見てニックは、滑りやすい岬の小道を走るオープニングテストを終えれば落ち着くよと言ってくれた。滑りやすい道だって?後輪駆動の車で大丈夫だろうか。BMW1602のステアリングはノンパワーだから低速では本当に重いがレスポンスはよく、フィーリングもソリッド感があってなかなかいい。次の動きが予測できるので安心感がある。雪の中ではプロドライバーのように振る舞えそうな気がしてきた。私はアキム・ウォームボルドを気取ってトライし、最初のテストを無事に乗り切った。

2番目のテストではニックが叫ぶインストラクションに新語が加わった。"Try too hard"というのはあまり飛ばしてはいけないという意味であり、"Calm down"とはスムーズに運転しろということである。ヒストリックカー・ラリーの新人にとって注意すべきは、走行中に自分は何をするべきかを頭に留めながら、次のマーカーをみつける努力を怠らないことである。

私たちはHEROのコンペティション部門のボス(このコース
の事務長でもある)、ガイ・ウッドコックの言葉を胸に刻みつけて、次のセクションであるボドミン・ムーアを舞台とする最初の重要なレギュラリティー・ランに向かった。彼はドライバーとしてもナビゲーターとしても、そしてオーガナイザーとしても尊敬に値する人物であり、彼の発する言葉には重みがある。「スピード制限を厳守しつつも常にプッシュする気持ちを忘れてはならない。スケジュールは情け容赦なく君たちを置いていくが、そういうときこそミスを冒すのだ」

激励の言葉は、ル・ジョグでいくつもの金メダルを獲得したアンディ・レインからもいただいた。「コントロールセンターには這ってでもたどり着くこと、それができないとメダルは見えてこないよ」



迷路のようなバドミンの道でさっそくこの助言が生きた。私はニックが言うとおりにアベレージ・スピードを変更して走り続けた。彼は地図によるナビゲーションをやめ、所用時間とスピードによるナビゲーションに切り換えた。すさまじい集中力。しばらく重苦しい沈黙が続いたかと思うと突然火がついたような声があがった。ミスした! レギュラリティーが終わったあとのインストラクションを全部読んでいなかったために、隠れたコントロールを見逃したのだった。なんてこった!

エグゼター・コースで行われたふたつのテストは、BMWが信頼に足る相棒であることを再認識させてくれた。一般道に戻ってセヴァン橋を渡るとそこはもうウェールズ州。凍てついたこの地域は、氷と雪で閉ざされたカントリーロードで、まさにラリーの国。引っ掻くようにしないと昇れない急勾配の道も待ち構える。

暗闇の中で行われたレギュラリティー・ランをさらにふたつこなしてから、アバガヴェニーに近い街で休息をとった。ナビゲーターはここですべてのプロッティングを行い、再度プランを練り直す。地図を広げ、手と頭を休めることなくコーヒーをすする。彼らは真夜中であろうと頭はいつもフル回転だ。次のインストラクションのセットを受け取ったら、即座に答えを導き出さないといけないのだ。

その間、外ではHEROの勇敢なクルーが参加車に積もった雪を落としてくれている。ここまでで脱落したのは2、3台、その中にはトニー・シーチ/ラチェル・ウェイクフィールド組の素晴らしいトライアンフ2000も含まれていた。もう1台はポルシェ356Bで、凍結した道で滑ってビル・クレインダート/ダン・ハリソン組のモーリス・ミニに追突。ミニは復帰できたが、356はリタイアとなった。

深夜1時、私たちはウェールズの奥深いところから北東部のクレイディアン・レインジまで、あとで思えば信じがたいタイム・コントロール・セクションに臨んだ。この区間では日中のように秒単位の計測はせず、分で測る。コンディションは最悪で、前を走った何台もの車が滑って道路をふさいでおり、後から行く者の進路を阻んでいた。最終的に5台の車がこのセクションを走れず、ミニは急勾配の丘を登れなかった。



HEROのボス、トーマス・デ・ヴァルガス・マシュカは911でラリーの障害となっている箇所を迂回する道案内をしてくれた。私たちはスノーダストで視界がかき消されそうになるなか、トーマスが駆る911の、魚の尻尾のような後ろ姿を見失わないようについていったが、911のナビゲーター、アリが丘の頂上で左に曲がるミスをした。私たちはそこをパス、マーク・ゴッドフレイ/マルティン・テイラー組のMGBのテールを見ながら進んだが、見えるのは雪の壁だけだった。

「こりゃあモンテカルロよりもひどい状態だよ!」私は大声で叫ぶと氷の下り坂を滑りながら降りていった。トーマスとアリがミスに気づいて戻ってきた。あわれにもニックのトリップメーターは凍りついたままで、しかたなく頭で時間とスピードを計算しなければならなかった。私にはとてもできないグレートな作業だ。私たちのアベレージスピードはもっとも速いもので29mph(約46.7km/h)だったが、ほとんどグリップのないここでは無事に切り抜けることだけに持てる力を総動員しなければならなかった。ここで体験した幻想的ともいえる長い一夜は、けっして忘れることはないだろう。

編集翻訳:尾澤英彦 Transcreation:Hidehiko OZAWA Words:Tony Jardine 

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