ベルト―ネの貴重な遺産の数々が眠る建物に潜入

ベルトーネ最後の遺産(Photography:Max Serra)

ベルトーネの遺産が売られようとしている。もしかしたらこの先バラバラになってしまうかもしれないその前に、残された品々が保管された最後の建物にマッシモ・デルボが潜入。そこには会社創設から40年の間に作られたショーカーからスタイルモデル、テクニカル・ドローイングまで、ベルトーネのすべてが眠っていた。

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1970年代にミラノで育った私には、ベルトーネのスタイルに触れることはごく自然なこと、当たり前の日常だった。大好きなおもちゃはベルトーネのカブリオだったし、家のまわりにはアルファGTジュニアやGTVを乗り回すお兄さんたちがいて、親しいお隣さんは1750や2000のセダンを愛用、友達の女の子なんかはイノチェンティ90やリトモ・カブリオで学校に送ってもらうとか、そんな環境だったのだ。だが、ショーカーやプロトタイプとなると別世界。それまでは雑誌の写真を見て楽しんだものだが、やがてアレーゼにできたアルファ・ロメオ・ミュージアムやコンクール・デレガンスで直接接することができるようになった。ここのおかげで、ジョルジェット・ジウジアーロやマルチェロ・ガンディーニといった天才が当時のベルトーネにいて、どうしてあのような形ができたのかということが、ようやく知ることができたのだった。

ベルトーネは1912年、ジョヴァンニ・ベルトーネがトリノに創設。イタリアで最も重要な自動車メーカーに対してボディやシャシーの重要部品を製造するのをなりわいとした。第一次世界大戦のあとも会社は順調に発展し、1934年には規模を求めてコルソ・ピスキエラに移転、第二次大戦後はジョヴァンニの息子ヌッチオが指揮を執るようになった。そのとき従業員の数はもう150人を超えていた。

ヌッチオは1950年代の終わりと60年代初期に沸き起こったイタリアの好景気を両方経験していた。これにより会社は急発展。まるで魔法の時代が幕を開けたかのように多くのヒット作を生み出した。ジュリエッタ・スプリント、BATプロトタイプ、カラボ、ナヴァーホ、ランチア・ストラトス・ゼロのショーカー、フィアットX1/9、アルファ・ロメオ・モントリオール、シトロエンBX、ミウラからディアブロまでのすべてのランボルギーニ、と枚挙に暇がない。と同時にニッチな少量生産車を自動車メーカーのために作るという華麗な転身も果たすのだが、それはやがてコスト増という問題を招くことになる。

1970年代初め、トリノの郊外カプリエに新しい社屋を建て、そこをベルトーネ・スティーレ社のヘッドクォーターとした。のちにミュージアムになるところだ。法的にいえばベルトーネ・スティーレはグループ企業であり、家業とは分けて考える必要がある。言うならば、将来の事業に向けた先行投資であったのである。1980年代、製造業のほうは、オペル・カデット・カブリオレ、ボルボ780クーペ、ベルトーネ・フリークライマー(ダイハツ・フェローザ4WDをベースにBMWのエンジンを載せたもの)、フィアット・リトモ・カブリオを生産するのに忙しかったが、どの車も高い品質が要求されるため、スティーレ社の収益は二の次にして、かなりの投資額を製造部門に注ぎ込んだ。これが財源が枯渇していく始まりであった。

決定的だったのは、21世紀になって、多くの自動車メーカーが自前のスタイリング部門を開設し、スモールスケールの車も自分たちで手がけるようになったことだ。ベルトーネが設計して生産の準備段階まで担当した最後の車は、2002年のフィアット・パンダと2004年のアルファ・ロメオGTなのだが、いずれも製造はベルトーネではない。特にアルファGTが会社に与えた影響は甚大だった。ベルトーネはアルファGTの生産を前提に膨大な投資をして生産ラインを敷いたのだが、実際に生産したのはフィアットのポミリアーノ・ダルコ工場だけだった。このことがベルトーネの財務状況をいっそう悪化させたのはいうまでもない。

ベルトーネはかつての繁栄が戻ることを期待しながら毎年ショーカーを出品していたのだが、それも叶わず、ついに2013年に破産申告をすることになった。ベルトーネ家の財産はそのときすでに跡形もなく消えていた。もっともお金になりそうな何台かのプロトタイプは2011年のオークションで処分されていたし、ミュージアムに残されたほとんどのもの、すなわち80台の車やたくさんのパーツや小物類まで、2015年の別のオークションで売り払われた。

編集翻訳:尾澤英彦 Transcreation:Hidehiko OZAWA Words:Massimo Delbo Photography:Max Serra

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