ベルト―ネの貴重な遺産の数々が眠る建物に潜入

ベルトーネ最後の遺産(Photography:Max Serra)



次々に書類のフォルダーを開き、プロジェクトの内容を見るたびに私は興奮のるつぼと化していたのだが、最後にたどり着いたのはもうひとつ別の驚きの世界だった。それは1972年から2000年までのプレスリリースのアーカイブだった。ここにはかつて雑誌の誌面を賑わした写真だけでなく、何らかの理由で日の目を見なかったものまで、すべての写真が収められているのである。

その中にはプロトタイプの製造過程を撮ったものやテクニカルシートもあり、一部資料の中には自動車会社とベルトーネとの間で行われた会議の模様まで記されていた。アルファ・ロメオとベルトーネ専用とされた書類フォルダーには"Contenziosi"とタイトルが付けられていた。基本的に議論を意味する言葉だが、弁護士を入れてとかの堅苦しい議論などではなく、読んで楽しいものだった。会議の最中にランチアやアルファやランボルギーニの計器板のこととか、古いスペアパーツの話などが話題になっているのだから。

ワンオフモデルのために注文製作されたスペアガラスやオリジナルのタイヤ/ホイール・セットが山積みされた部屋もあった。明かりを頼りに私はプラスタールームに入った。そこにはアストン・マーティン・ジェットの実物大模型が、まだ完全ではないがほぼ出来上がった状態で置かれていた。なんというワンダーランドなのだろう。


まもなくこれらベルトーネのみならず自動車界にとっても貴重な遺産すべてがオークションに付されることになる。ひとつでも多くのものが、しかるべき施設に所蔵されることを願う。40年間の自動車デザインとクラフツマンシップにとって、明るい未来が開かれることになるからだ。私は建物を去るとき、エントランスを誇らしげに飾っていたであろう大きな"b"の記章が床に転がっていたのを感慨深く見つめた。悲しさがこみあげてくると同時に、私の息子はベルトーネのデザインに囲まれて成長していくことはないことを実感した。しかしここでずっと保存してきたものは、過去にイタリアの道を美しく飾った車と同じくらい、いやもしかしたらそれ以上に大切なものであるに違いない。




スタイリングモデルには伝説的なカラボも。

編集翻訳:尾澤英彦 Transcreation:Hidehiko OZAWA Words:Massimo Delbo Photography:Max Serra

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