映画『卒業』に登場した小さなアルファ・ロメオ│その後のストーリー

アルファ・ロメオ・スパイダー1600"デュエット"(Photography:Evan Klein)

1967年の映画『卒業』に登場して、アルファ・ロメオ・デュエットはスターダムを駆け上がった。映画の撮影に用いられた1台を追い求めて、マーク・ディクソンがリサーチを開始した。

映画のなかでその車が見届けられることはなかった。ただ酷使され、暴言を吐かれた末に、ガス欠になったからといって路肩に見捨てられてしまう。それでも、映画『卒業』に登場した小さな赤いアルファ・ロメオ・デュエットは、まるでひとりの名脇役のようにいまも記憶されている。いや、その人気は浮き沈みの激しい俳優よりも寿命が長いかもしれない。なにしろ、アルファ・ロメオが新型車を発表するたびに、どこかのジャーナリストがネットでダスティン・ホフマンが乗った1966年製デュエットについて検索しているのは間違いのないことなのだから…。

すべての写真を見る

スパイダーのキャスティング
たとえ、この映画をしばらく見直していなかったとしても、筋書きを思い起こすのは難しくないはず。大学を卒業したものの、失意のまま帰郷した主人公のベンジャミン・ブラドック(ダスティン・ホフマン)は、既婚で年上のロビンソン夫人(アン・バンクロフト)に再会すると、彼女からの誘惑を受ける。さらに驚くべきことに、ベンはロビンソン夫人の娘であるエレーン(キャサリン・ロス)とも恋に落ちる。奇妙な三角関係は、立派ではあるものの退屈そうな男とエレーンが挙式を挙げようとする教会にベンが駆けつけ、彼女の名前を大声で叫ぶシーンでひとつのクライマックスを迎える…。ここまで聞いても思い出せなければ、映画を見直すのもいいだろう。きっと、何度見直してもいい映画だ。

赤いアルファは卒業祝いとしてベンに贈られたものだが、物質主義に対する彼の不満を象徴するものとしても表現される。最初に見たときは立派で光り輝く存在に思えたものの、やがてホコリをかぶり、ついにはエレーンを救うべく必死に教会へ向かう途中で道ばたにうち捨てられてしまう。なるほど、ベンはアルファのことを実に粗末に扱っている。エレーンとデートをする印象的なシーンでは、急ハンドルを切って高い縁石に乗り上げ、あたりに火花をまき散らせたほどだ。

映画の撮影で少なくとも2台のデュエットが使われたのは、乱暴な駐車など予期せぬ事態に備えるのが目的だったのかもしれない。このとき、車の下回りはひどいダメージを負ったはずで、おそらく走行不能に陥ったのではないか。はっきりしたことはわからないか、2台か、ひょっとすると3台のデュエットが撮影され、編集で1本の映画に仕上げられたようにも思える。映画ファンの間では、走行中のシーンで映るラジオにふたつの種類が存在していることや、あるシーンではラジオ・アンテナやサンバイザーが映っているのに、別のシーンではそれらが映っていないことなどが何度となく取り沙汰されている。

『卒業』が公開されたのは1967年12月22日のこと。いっぽう、デュエットが発表されたのは1966年3月のジュネーヴ・モーターショーだったので、プロモーションを行うにはピッタリなタイミングだったといえる。姉妹モデルのジュリア・クーペやセダンと同じプラットフォームを用いたデュエットは、1570ccのツインカム・エンジン、4輪ディスク・ブレーキ、5速ギアボックスといった特徴を共有するいっぽうで、ホイールベースだけは短縮されていた。また、同時期のイギリス製スポーツカーと異なり、ソフトトップを片手で開けたり閉じたりできるのも特徴のひとつ。エレーンを理解するきっかけとなるドライブインのシーンではダスティン・ホフマンがこれを実践している。意外にも現代的な作りだったのだ。

ところで、エンスージアストたちはいまもこの車を"デュエット"と呼ぶが、この名称は発表して間もなく取り下げられた。なぜなら、イタリアのチョコレートメーカーがすでに"デュエット"の名を登録していたからだ。ちなみに正式名称はアルファ・ロメオ・スパイダー1600。そもそもデュエットの名は、新型車のモデル名が公募された際に、グイドバルド・トリオンフィという男が提案して当選したもので、彼にはごく初期の"デュエット"が賞品として贈られた。

その後、デュエットはクーペやセダンと同じように進化を遂げていく。1570ccのエンジンは1968年1月に1750ccユニットに置き換えられ、同じ年の6月には1300ccエンジンを積んだ"ジュニア"を追加。これらはいずれもピニンファリーナが描いたボートテールを備えていたが、1970年にはよりコンベンショナルなテールエンドに改められ、排気量は1962ccへと拡大される。

1980年代には2度のフェイスリフトが実施された。そのうちの1度は衝撃吸収型のバンパーを装着するためのものだったが、こうしてスパイダーが重く肥大化していくと、多くのファンはオリジナルのボートテール・タイプを欲しがるようになる。映画で見たデュエットの記憶がそうさせるのかもしれないが、アルファ・ロメオがエントリーモデルとして"Graduate(卒業)"名を冠して、1985〜1990年まで北米で販売したことは、映画の影響の大きさを物語るひとつのエピソードといえるだろう。

編集翻訳:大谷達也 Transcreation:Tatsuya OTANI Words:Mark Dixon Photography:Evan Klein

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

RANKING人気の記事