映画『卒業』に登場した小さなアルファ・ロメオ│その後のストーリー

アルファ・ロメオ・スパイダー1600"デュエット"(Photography:Evan Klein)



ここでひとつ明確にしておかなければならないのは、この車は、「映画で登場したデュエットそのものではない」ということだ。これは後にデビューした1750モデルで、現在はLAで眼鏡商を営むヘイグ・コルバジアンが所有している。ヘイグは弊誌のフォトグラファーであるエヴァン・クラインに口説き落とされ、映画で撮影された場所を再訪することになったのだ。赤いアルファと一緒に写っている建物はラヴァーンのユナイテッド・メソジスト教会で、ベンが大きなガラス窓を叩くシーンはこの教会の内部で撮影されたものである。

興味深いのは、映画『卒業』で何度も引き合いに出されてきた赤いアルファの消息に関する情報が極端に少ない点にある。どうやら、その理由は映画に関する記録がほとんど残されていないことにあるようだが、いくつかのインターネット・サイトには「新型のアルファ・スパイダー1600が映画に登場したのは、ダスティン・ホフマンの叔父が北米にアルファを輸入していたマックス・ホフマンだったからだ」との記述が見受けられる。さらには、卒業の配役が決められた当時、ダスティンもマックスもニューヨークに住んでいたとか、ホフマンはアメリカ人に多い苗字ではないなどのもっともらしい指摘が続く。本当だろうか?

実際のところ、ホフマンの名前は北米、とりわけニューヨークでは決してめずらしい苗字ではなかった。彼らの祖先はドイツ人もしくはユダヤ人で、19世紀に迫害を逃れて移住してきたのだという。ここまでくると、前述した説が妙に都合よく仕立てられたもののように思えてくる。そこで私はオクタンのコラムニストであるジェイ・レノにコンタクトをとり、真実を知っていたら教えて欲しいと頼んでみた。するとレノから以下のような返事が届いた。「私はなにも知らない。ただし、もしもご希望とあらばダスティンに電話をして訊ねてみようか?」

いつものように、レノはその言葉を守ってくれた。数日後、彼は電話でこう伝えてきた。「ダスティンは、絶対に、断じて親戚じゃないと語っていたよ。そのために、なんと家系図まで調べてくれたそうだ」

では、映画の撮影に2台もしくは3台のデュエットが用いられたという説はどうか?こちらに関しては確証がないものの、このうちの1台が撮影後間もなくレースを戦っていたことまでは追跡できた。

コロラドでアルファのワークショップを長年切り盛りしてきたカレン・マクゴーワンは、1969年から所有するデュエットで様々なレースに出場してきた。これこそ、卒業に登場したうちの1台とされるアルファである。彼女は自分がそのオーナーとなるまでの一部始終を、私たちに聞かせてくれた。

「1967年に私は1300ヴェローチェでレースに出ていました。でも、もうちょっと速い車がほしいと思い始めていたところ、68年にSCCAナショナル・チャンピオンシップが終わった頃、2台のアルファが売りに出ているという話を耳にしたの。ただ、どちらも1万5000ドルくらいで売りたいというのよ。それを聞いて、私はきっと無理だと思ったの。ところが69年の6月になってお友達が電話をかけてきて、『あの車、1台3000ドルまで値段が下がったよ!』と知らせてくださったの」

「1969年のことだから、ずいぶんな金額だったのよ。それでも私はリー・ミジェッリーに電話をすると、彼にデポジットを託して現地に行ってもらったの。リーはアルファのオーナー兼ドライバーで、リバーサイドで行われた1968年のUSチャンピオンズ・レースでは2位に入ったほどの腕前。で、カリフォルニアのリバーサイドでスポーツカー・サービスという名のアルファ・ディーラーを営んでいて、彼のレース仲間がボブ・グリフィスだったの。そしてこのボブがアルファを売りに出していたのよ」

編集翻訳:大谷達也 Transcreation:Tatsuya OTANI Words:Mark Dixon Photography:Evan Klein

無料メールマガジン登録   人気の記事や編集部おすすめ記事を配信         
登録することで、会員規約に同意したものとみなされます。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

RANKING人気の記事