映画『卒業』に登場した小さなアルファ・ロメオ│その後のストーリー

アルファ・ロメオ・スパイダー1600"デュエット"(Photography:Evan Klein)



「アルファが私の手元にやってきたのは6月13日のこと。完全なレーシングカーに仕立ててあって、エンジンは1600ccだったけれどGTAのギアボックスとスライドブロック式リアサスペンションが付いていたわ。ボディーがオレンジに塗られていたのは、きっとこの車のスポンサーがアルファのパーツ部門だったからよ。当時、アルファの純正部品はオレンジと白の箱に入っていたの。そのときは、この車が映画に登場していたなんて、まるで知らなかったわ」

仕事の都合でナッシュヴィルに暮らしていた1969年から72年までカレンはこの車でレースにエントリーし、70年代半ばにコロラドに移った。自分の所有する車が映画で撮影されたものだという話は、コロラドのアルファ・オーナーズ・クラブが催したミーティングで耳にしたという。

「ミーティングが開かれたのはデンバーにあるアルファのショールーム。そこで何杯かビールを呑んでいると、セールスマンがやってきてこう言ったのよ。『あなたのアルファが『卒業』に登場していることはご存じでしたか?』これを聞いて、私は確かめることにしたの。リーに聞いたところ、彼が買い取ってきた1台は映画に登場した車だっていうの。残念なことにリーは数年前にこの世を去りましたが、そのときでさえ、記録が残ってなくてなにもわからないという話でした。映画が撮影されてから、まだ10年ほどしか経っていなかったのに」

「その後、アルファ・ロメオは正式な発表を行ったの。撮影で使用された車は1度も正式に登録されたことがないって(映画では"OUP 367"という架空のカリフォルニア・ナンバーが用いられた)。きっと、撮影中のスパイダーはアルファが所有していたのでしょうね。その後、アルファ・ディーラーを営むリー・ミジェッリーの手を借りて売却したと思うの。2台目のレーシングカーはボブ・グリフィスが乗る予定だったけれど、これは映画には登場しなかっただけでなく、その後、行方不明になってしまったわ。正直にいって、私の車が『卒業』に登場していたって考えるのは楽しいけれど、それほど関心があるわけでもないの。あの車は、なんといっても私のレーシングカーなのよ」

それでもカレンは、ウェストコーストに暮らすアルファ愛好家たちの連絡先を教えてくれた。実は、彼女の父親は、カリフォルニアでオーナーズクラブを立ち上げた創業メンバーのひとりなのである。彼らの間では、3台のデュエットが撮影に使われたというのが定説になっているらしい。そのうちの1台は廃車となり、もう1台はカレンが所有している。では、残る1台は?これについては誰も知らないし、もはや永遠に知る手立てはないはずだ。

1年が過ぎるごとに、真実を知るのはより困難になる。オクタゴンのフォトグラファーであるエヴァン・クラインのつてを頼りに、映画『卒業』でアシスタント・プロダクション・デザイナーを務めたジョエル・シラーにコンタクトをとってみた。ところが、悲しいことにシラーは2018年1月17日に逝去したという。これで卒業に登場するデュエットに関する手がかりは完全に失われたと言っても過言ではない。それとも、どなたか詳しくご存じの方がおられるだろうか?


編集翻訳:大谷達也 Transcreation:Tatsuya OTANI Words:Mark Dixon Photography:Evan Klein

無料メールマガジン登録   人気の記事や編集部おすすめ記事を配信         
登録することで、会員規約に同意したものとみなされます。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

RANKING人気の記事