プリンス自動車のインサイドストーリー 第6回│プレミアムメーカーとしてのプリンス

Kumataro ITAYA



来し方の全てを否定され、文明偏重を押しつけられた戦後の日本において、しかも生活にすら困窮するような状況下にあって、プリンスが希求したのは文化を創造するメーカーの姿である。最初に手掛けたガソリンエンジン車は、1500㏄という当時の日本で最大の排気量のもので、トヨタが同じ排気量のクラウンを手掛けるよりも3年も前のことだった。以来、プリンスは1500㏄より少ない排気量のクルマをつくることはなかった。

プリンスとは、乗用車に一貫してラグジャリーとスポーツのカテゴリーを追求した日本で唯一のメーカーである。そのようなプリンスの姿勢は、プロトタイプレーサーのR380と、天皇の御料車A390、すなわちプリンス・ロイヤルに象徴的に集約されている。プリンス・ロイヤルのハード面については、小林彰太郎さん監修の「天皇の御料車」(二玄社刊)に収められた増田忠氏による論稿に詳しいので、ご興味のある向きはそちらを参照されたい。ここでは、主にプリンス・ロイヤルのソフト面について述べる。

ラグジャリーとスポーツのラインナップしか持たない自動車メーカーをプレミアムカーメーカーと呼ぶならば、既に述べたごとくプリンスはまさにその範疇にある。ここでプレミアムカーの要件についても、少し考えてみることにしよう。プレミアムとは、数が少ないこと、価格が高いこと、など様々な捉え方ができる。

しかしながら、わたしの定義はもっと単純である。顧客が誰か。これがプレミアムか否かを判断する際に最も重要なポイントだと考えている。クルマの場合は、生産国の国家元首が乗っていること、ただそれだけである。日本では皇室御用達、英国ではロイヤルワランティを授けられたメーカーによるクルマがプレミアムカーなのである。

この点でも、プリンスは条件にかなっている。今上天皇が皇太子の頃、殿下は9台ものプリンス車を相次いで愛用されている。その他の皇族方も皇太子殿下に倣ってプリンスをご愛用。かくもプリンスと皇室の縁は深い。そもそもプリンスというメーカーには、皇室と縁の深い、世が世なら殿上人たる人々が多く集っていた。現役侍従の兄弟、後に秋篠宮ご婚儀に際し先導役を務めることになる者、そして今上天皇のご学友役など、その陣容はプリンスの名に恥じない。

文:板谷熊太郎(Kumataro ITAYA)

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