ポルシェ 964RS vs ニッサン スカイライン│因縁の対決、再び

Photography: Stuart Collins



1989年に登場したスカイラインGT-Rは、未来からやってきた車のような印象すらあった。2.6ℓ直列6気筒ツインターボエンジンをフロントに搭載し、4輪駆動なだけでなくスーパーハイキャスと呼ばれる4輪操舵システムを搭載。イギリスには正規輸入されなかったので、"東洋の神秘" と崇められたとさえ言える。当時、プレイステーションに登場したばかりのゲーム「グランツーリスモ」でしかそのパフォーマンスを味わえなかった。

今も昔もR32をイギリスで探すのは至難の業だ。かつては並行輸入でしかR32に乗ることはできなかったし、今となっては並行輸入されたものも改造されていたり、修復歴があったりするケースも少なくない。フルオリジナルのR32をイギリスで探すのはまず不可能に近い。"少し" 改造されたくらいなら維持費もさほど高くないだろうし、選択肢としてはアリだろう。

そもそもRB26DETTエンジンの最高出力は公称278hpではあるが、新車時から300hp近く出ていたと噂されている。また、このエンジンの最大の特徴は500hpでスーパーカーと呼ばれた時代に、チューニング次第では1000hpを叩き出すのも決して夢物語ではなかったことだ。

イグニッションを捻ると短いクランキングを経て、重低音を響かせてからのアイドリングとなる。クラッチは重たすぎることはないが、軽くもない。シフトは正確で"ドッシリ" という表現がぴったりだろう。これはカレラRSも同じだ。パワーステアリングのアシスト量は駐車時の苦労を取り去るレベルで、走行中のステアリングフィールはシャープだ。エンジンはとにかく懐が深い。エンジンは低回転域ではさほど"元気" がないように感じるのだが、ターボが効き始めると怒涛のようなパワーとトルクが押し寄せてくる。

「ATTESA E-TS」と呼ばれる電子制御トルクスプリット4WDシステムは、路面状況や走り方に応じてトルクを前後で0:100~50:50配分する。4輪操舵と相まって、R32のコーナリングは独特だ。リアが"出そうだなぁ" と感じるところでもう少しアクセルを踏み込み、若干のカウンターステアをあてて駆け抜ける。ひとたびコツを掴めば、速度域に関係なくほかの車では味わえない走りであることに気づかされる。



良質な中古GT-Rへの需要は、従来よりも高まりつつある。しかし、現在イギリスでは1万ポンドも出せば"まぁまぁ" のモノが狙える。純正パーツのなかにはいくつか入手が困難になっているものもあるが、イギリスや日本のチューナー(日産傘下のニスモ含む)などのパーツで対応できる。メンテナンスしながらもチューニングにもなる、と思えば面白いカーライフが送れるだろう。

カレラRSとR32を"ライバル" として取り上げたからにはどちらに軍配が上がるのか、が読者にとって最大の関心事だろう。ここまで引っ張っておきながら申し訳ないのだが、両車の走りはそれぞれに個性的でもはや良し悪しをつけられるものでもない。新車時はさほど評価されなかったカレラRSはやっぱり"レンシュポルト911"、という血筋の良さが見直されてきた。

一方、R32はチューニング界からは熱い眼差しを集め過ぎたゆえに、ポルシェのような正統派イメージとは縁遠くなってしまったかもしれない。しかし、R32を運転してみるとレンシュポルト911同様、病みつきになってしまう。走りへのアプローチはカレラRSが「伝統」だとすれば、R32のそれは「テクノロジー武装」だろう。

もっと言えば、自動車史において新しい1ページを日産はスカイラインGT-Rとともに切り拓いた。方法論に違いはあれど両車、根底にあるのはモータースポーツDNAである。オーストラリアの名門レース「バサースト1000」(1000㎞耐久レース)では、R32の圧倒的速さから1992年を境にターボエンジン禁止、という新たなレギュレーションの導入によって締め出されたほど。当時のR32は、それほどエポックメイキングな存在であったのだ。そういう意味ではカレラRSが見直されたように、スカイラインGT-Rに改めて注目されるべき存在だ。程度の良いものに巡り合えたら、迷わず手に入れておきたい。

編集翻訳:古賀貴司 Transcreation: Takashi KOGA Words: Richard Meaden

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