世界初 マクラーレンF1をファクトリーでレストア│心臓が止まるかと思うほど騒々しいノイズ

Photography:Tim Scott, Restoration photography:Patrick Gosling / Tim Scott



覚えておくべき言葉がある。「近くでマクラーレンF1GTRのエンジンが始動されるなら、あらかじめ指で耳の穴を塞いでおくべきだ」と。そのノイズは心臓が止まるかと思うほど騒々しい。チェーンソーに似た耳障りな音色は、音楽的な要素のひとかけらもないが、その意図するところは実に明瞭だった。写真撮影用にパニが大人しく走らせているときでさえ、ギアボックスががなりたてるガガガガガという音が耳につき、やがてエグゾーストノートがあたりを制圧した。

カメラカーと並んで走行したとき、パニはできるだけエンジ
ン回転数を低く抑えていたが、エンジンに十分な冷却気を送り込むには、ある程度のスピードを保たなければならない。冷却ファンをつければメカニズムが複雑になり、重量も増す。安易な妥協など、この車にはどこにもなかった。テストが終わると、ル・マン仕様のエンジンマッピングを施した25Rを低速で走らせる難しさについて、パニが語り始めた。「なにしろ1997年のル・マン仕様を完璧に再現しているので、マシンのスペックもすべてそのときの状態に仕上げています。ギアリング、燃料噴射、ステアリング、車高⋯。しかも、97年モデルは、ロードカーに小変更を加えただけの95年/96年モデルとは大幅に異なっています。通常、GTRでも公道を走行する際は運転しやすいマッピングに変更しますが、この車はなにからなにまで1997年の6月にこだわって仕上げられているんです」



1990年代に造られた電子制御システムのマッピングをどうやって変更したのだろうか?答えは、同じ1990年代に造られたラップトップのコンパックLTE5400を使ったのだ。RAMはたったの32MBで、フロッピーディスク・ドライブを備えたビンテージものだ。マクラーレンはこのラップトップを6台保有しているほか、幸運にも、オリジナルのプログラムを作成した元TAGマクラーレンのエンジニアに作業を依頼することができた。継続的なサービスを行うにはこのように貴重なパソコンの存在が必要不可欠だが、同じ問題を抱えているのはマクラーレンだけでなく、1990年代にレースカーを造り上げたすべてのマニュファクチュアラーに共通しているので、なんらかの解決策が見いだされることを期待したい。

完璧な作業を終えた25RロングテールはキッドストンSAの手を経て、この日を忍耐強く待ち続けたオーナーのもとへと送り届けられた。この車は自動車産業界の宝石といっていいだろう。「完成度と仕上がりは、すべての期待を上回っています」と、トム・ラインホルトはサムアップしてみせた。

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「私
たちはマクラーレンであり、スペシャル・オペレーションズです。そうあるのは、当然のことといえるでしょう」


編集翻訳:大谷達也 Transcreation:Tatsuya OTANI Words:Mark Dixon 

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