ポルシェ917 vs フェラーリ512S│メーカーの威厳を賭けた戦い

Photography:Paul Harmaer



次に両車の中身を見てみよう。いつの時代でもトップを争う車は形状やメカニズムなどの構成要素が似かよるものだが、917と512Sに関していえば、両極端ともいえるほどの違いが見てとれる。もっとも大きく異なるのがエンジンである。どちらも12気筒で、8000rpm付近で550bhp前後を得る点も同じだが(数値は発表値のもの)、フェラーリは60度V型のシリンダー配置を採り、冷却には水を使う。いっぽうのポルシェは911から伝統の水平対向で、エンジンが駆動する大型のファンにより空気で冷却する方式だ。駆動の方法は、センターテイクオフ式のクランクシャフト構造を活かし、中央のギアを介してエンジン中央部に水平に置かれたファンを回すというもの。



こう見ると917のエンジンは911の6気筒エンジンを2個縦につないで作ったように見えるかもしれないが、それは正しくない。512SのV12エンジンは、バンクごとに2本のOHCを持つ4カムで、1シリンダーあたりのバルブ数はポルシェの2本に対し4 本を備える。全部で4 本のカムシャフトはエンジン前端のギアトレーンで駆動されるなど、当時のレーシングエンジンをリードするレイアウトである。もちろんそれまでのフェラーリの伝統から少しも逸れるものではない。車両のもっとも基礎的な部分、フレームに関しても同様にそれぞれの主張が見られる。



ポルシェはグラスファ
イバーのボディとアルミニウム製のスペースフレーム(のちに一部の車だけにマグネシウム製フレームが採用されたことがある)方式を採用。これに対してフェラーリはスチール製のスペースフレームにアルミニウムのシート材をリベット留めする、いわゆるセミモノコック方式を採る。

すでにモノコックが一般化
していた時代だが、あえて時流を追わなかったのは、自分たちの設計手法に自信があると信じているからにほかならず、その意味では数少ない共通点といえるだろう。それはともかく、上記の根本的な機構上の違いは、それぞれの会社のエンジニアリングに対する文化の違いが如実に表われている。こうした対比を鮮明にしながら互角に渡り合ったライバルというのは、なかなか目にしないものである。 

917と512Sは、再三レギュレーションが変
更されるなかで1970年と71年のわずか2年間を戦っただけだが、この2年間はポルシェとフェラーリががっぷり四つに組んだ唯一の戦いともいえる。しかし2年間の戦績をひもとけば、激しくトップを争ったレースは数えるほどしかなく、軍配は圧倒的にポルシェの側に上げざるをえない。それでも2台がよきライバルとして記憶に残っているのは、相手の存在がお互いを高めていったからだろう。

立ちは
だかる存在が新たな開発を推し進める。常勝917も512Sがいたからこそ強くなれた。73年からの新レギュレーションでフェラーリが312PBで圧倒的強さを発揮したのも、それまでのポルシェとの戦いで得たものが糧となったのは間違いない。917もやがて936にバトンを渡し、956、962で彼らのレーシングスポーツカーのデザイン・テクノロジーをさらに昇華させた。

その遺伝子は今日のLMP1カー、
919ハイブリッドにも受け継がれているのだろう。312PB以来、フェラーリのレーシングスポーツカーは途絶えているが、いつの日か彼らの遺伝子を受け継ぐマシンが登場し、再びポルシェとよきライバル関係を築いてほしいと願うのは私だけではないだろう。

Words:尾澤英彦 Hidehiko OZAWA 

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