完璧にレストアされた最高にエキゾチックな1台│強烈で肉体的なドライビング体験

Photography:Tim Andrew



だが、1、2マイルほど走っただけで、5300GTの優れた動的性能が分かってきた。エンジンに関するビッザリーニの評価は正しかった。ロードカー仕様の最高出力は385bhp。サウンドは、うなじの毛が逆立つようなフェラーリV12に比べると少々ソフトだ。だが、そのトルクは病みつきになるほどで、約1200kgのアルミニウムの塊を瞬時に突き動かし、レスポンスは鋭さを増していく。動力源はすぐ近くにある。エンジンの搭載位置を後方に下げた結果、ダッシュボードの上のパネルを開ければディストリビューターに手が届くのだ。

乗り心地は洗練されており、コニ製ダンパーが路面の微妙な凹凸も読み取って、コントロールを助けている。速度が上がるほどしなやかになる多くの車と違って、ビッザリーニはハードに攻めるほど、ミシュランXWXのトレッドを強く地面に押しつけるようだ。低速時の従順さが、高速時には高い操縦性と明確な情報伝達に変わる。ほかでは味わえない独特の感覚だ。スピードが上がるほどどっしりとし、より多くの自信と情報をドライバーに与えてくれるのである。街並みが後方に消えると、5300GTはますます本領を発揮し始めた。コッツウォルズの丘陵地帯を縫う並木道が、上下にうねりながら次々と現れてはまた消えていく。

何といっても最大の驚きは4段ギアボックスだった。変速は正確で、1速は非常にハイギアードだが(60mph近くまで引っ張ることも可能)、2速と3速はクロスレシオで回転を高く保つことができる。おかげでエンジンのもうひとつの特性、トップエンドの燃えるようなパワーデリバリーを味わえるのだ。フィジカルなクロスレシオのギアボックス、重量感のあるステアリング、そしてパンチの効いたエンジンと、すべてが完璧にマッチしている。また、重量とレスポンスを直感的にコントロールできるので、ドライビングしやすく、嫌な驚きがない。



ブレーキもきちんと仕事をこなしている。グッドウッドでドリフトするビッザリーニは迫力満点だが、公道ではすべてが申し分なく制御されている。路面をがっしりと捉え、トラクションもグリップもまだ余裕たっぷりだ。そんな中でも、ビッザリーニを完全に解き放ったらどんな感触なのか、その片鱗がふっと感じられる瞬間がある。
 
そこまで攻めた走りを続けられたら、夢のような経験がで
きるだろう。私は落ち葉の散る濡れた路面で、5300GTの
究極のバランス能力を垣間見た。その敏捷さには舌を巻く。エンジンの搭載位置の効果がフロントエンドの反応にはっきり表れ、ド・ディオン式のリアもその正確さに見事に応える。ステアリング操作のひとつひとつに明確かつコンスタントに反応しながら、流れるように走り続けるのである。

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo. )  Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:Jethro Bovingdon 

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