敗者はいかに?│ポルシェ911ターボ vs アストンマーティンV8ヴァンテージ

Photography:Stuart Collins and Matthew Howell

いまから30年前、ヤッピーたちから羨望のまなざしで見つめられていたポルシェ911ターボとアストンマーティンV8ヴァンテージ。

そこには数々の伝説があった。 アダム&ジ・アンツ、ライブ・エイド、鉄の女、チェ
ルノブイリ、ダイアナ妃、マイケル・ジャクソン、グラスノスチ、ペレストロイカ、天安門事件、そしてベルリンの壁崩壊。1980年代と聞いて思い出すのはこんな言葉の数々だが、それとともに忘れられないのが真っ赤なガーズレッドにペイントされたポルシェ911だ。

当時、911ほど資本主義を象徴する車はなかった。やり手のビジネスマン、ヤッピーたちは誰もが911に乗っていた。それだけじゃない。外科医、美術品ブローカー、PRコンサルタント、ミュージシャン……。そういった手合いの間でポルシェはいつも引っ張りだこだった。

先日、ポルシェGBのあるスタッフとおしゃべりをした際、ガーズレッドの911はたしかによく売れたが、ブラックやホワイトも同じように人気だったという話を聞いた。けれども、私たちの記憶に残っているのは圧倒的にガーズレッドだ。1970年代後半に登場した911ターボは史上もっとも優れた加速性能を誇るロードカーといわれたが、その次にロンドンっ子の耳目を集めたのはガーズレッドであり、サッチャー首相が健在だった時代と切っても切れない関係にあった。それは、もはや伝説といっても構わないだろう。

これと並ぶ"1980年代のマスコット"といえば、アストンマーティンV8ヴァンテージをおいて他にない。カラーはブリティッシュレーシンググリーン、ホイールはクロススポーク、インテリアは赤のパイピングが施されたクリームのレザーにトドメをさす。もちろん、911ターボもV8ヴァンテージも誰にでも簡単に手が届く代物ではなかった。1980年代初頭、911ターボの価格は2万8000ポンド(当時のレートで約1400万円)。アストン? 驚くなかれ、こちらは4万ポンド(約2000万円)である。ある統計によると、1980年代前半のイギリスにおける一軒家の平均価格は2万3497ポンド(約1200万円)だった。つまり、アストンの価格は、郊外に建つ3ベッドルームの一戸建てのおよそ2倍に相当していたのだ。

ポルシェ911がこの世に生を受けたのは1963年。エンジンは当初2.0ℓだったが、水平対向6気筒の排気量は徐々に拡大され、これに伴ってボディも次第に大きくなり、1974年には3.0リッター空冷フラット6にKKKターボチャージャーを組み合わせた911ターボが登場する。それは、911が突如としてスーパーカーに生まれ変わった瞬間だった。

その強大なパワーの象徴として装備されたのがホエールテール(クジラのシッポ)のニックネームが与えられた巨大なリアウィングで、このおかげでリフトはそれまでの約180㎏から約17kgへと激減した。あわせてリアのトレッドも拡大し、極太のリアタイヤが装着されることとなる。

1977年になると排気量を3.3リッターに拡大するとともにインタークーラーを追加。これによってエンジンパワーは260bhpから300bhpへと向上したほか、リアウィングの形状はホエールテールからティートレイ(茶盆)へと改められた。ギアボックスは強化された4速マニュアルだったが、同じ仕様は964が登場する1980年代末まで継続的に生産された。この911ターボの最終期にはスラントノーズターボSEなるモデルも限定発売されたが、あれなどは差し詰め、ポルシェがマーケティング主導で企画した最初の商品といえなくもない。

ヴァンテージのルーツにあたるDBSがデビューしたのは1967年。当初はDB6譲りのストレート6を搭載していたが、その2年後にはタデック・マレックがデザインした新開発のV8(イギリスで設計された4カム・ヘッドを持つ量産車用V8エンジンとしては史上唯一の存在)が投入された。そして1972年にはスタイリングが見直されてV8と呼ばれるようになる。ヴァンテージが追加されたのは1977年のことだ。

当初390bhp、後に438bhpへと強化されたV8エンジンを積むヴァンテージは、"イギリス最初のスーパーカー" と称された。アストンはスペックの詳細を公表したがらなかったものの、V8エンジンのパワーアップは大口径のキャブレター、マニフォールドの改良、カムシャフトの見直しによって達成されていた。よりワイドなタイヤ、減衰力を高めたダンパー、プログレッシブな特性に改められたバンプストップラバーが与えられたサスペンションが1783㎏のボディを支え、シェイプがより深くなったフロントスポイラーとドライビングライトを内蔵したシュラウド付きフロントグリルはエアロダイナミクスの向上に役立つとされた。

編集翻訳:大谷達也 Transcreation:Tatsuya OTANI  Words:Glen Waddington 

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