熾烈なバトルのプレイヤー│フェラーリF40 vs ポルシェ959

Photography:Michael Bailie

1980年代末、ハイテク満載のポルシェ959が登場すると、フェラーリF40は途端に野蛮で時代遅れのスーパーカー
のようにみなされてしまった。しかしながら今、"モダンクラシック"となった2台は、そのパフォーマンスのみならず、実用性や価値という点でどのように評価されるべきだろうか? 

すべての写真を見る

また新たな闘いが始まった。いや、もっと正
確に言えば、ずっと昔から続いてきた熾烈なバトルのプレイヤーが変わっただけかもしれない。エンツォの後継モデルと目されるフェラーリのハイパーカー"ラ・フェラーリ"と、ポルシェのハイブリッド・スーパーカーである"918スパイダー"。これまでと同じように、スポーツカーの両雄による覇権争いはこれからも続くのである。

1983年に時計を戻そう。ポルシェがその技術の結晶ともいえる"グルッペB"、すなわち間もなく959として世に知られる車を、世にも美しいフェラーリ288GTOにぶつけて来た時、エンツォ・フェラーリはレース計画のすべてを中止するという苦渋の、だが賢明な決断を下した。ポルシェのグループBマシンを打ち負かすことはできないと悟ったからである。その後のグループBルールの変更によってフェラーリの面目は多少保たれたが、しかしGTOはサーキットに姿を現さないまま、技術的に劣ると判断されてしまったのである。

フェラーリの返答はきわめてストレートだった。1987年、創立40周年を記念する年にロードゴーイングレーサーというべきF40を送り出す。最高速201mph(323㎞/h)、0-60mph加速3.7秒を誇る限定生産のフラッグシップモデルによってフェラーリは世界最速の称号を取り戻した。何よりも重要なのは197mph(317㎞/h)の959を凌いだということだった。

当初400台と発表された生産台数はほどなく1000台に増やされ、最終的には1992年までに1315台が生産された。英国で発売された時の価格は19万3000ポンドだったが、あっという間に50万もの値が付くようになった。ナイジェル・マンセルが自分の車を80万ポンドで売って、F1ドライバーと同じぐらいカーディーラーとしても凄腕であることを見せつけたのもこの頃である。その後当然ながら値段は落ち着いたものの、現在では最高のコンディションのものなら再び50万ポンドに近い値がつくという。

1983年のフランクフルトショーに初めて出品されたポルシェ959は1987年に発売された。建前としては200台の限定生産という計画だったが、実際にはレーシングバージョンやテストカーも含めて計268台が生産されたという。F40よりはるかに少ない959の新車当時の値段は14万5000ポンド、一時は投資家たちがその倍ぐらいの値段に吊り上げたが、現在では良い個体を20万ポンドぐらいで見つけることができる。

80年代末の水準から見ると、959は信じられないほど先進的で複雑なマシンだった。ポルシェは自分たちの優れた技術をアピールするために、本当のコストの半分ほどで売ったともっぱらの評判だった。実際、彼らはその後モータースポーツの現場でそれを証明する。

1986年パリ-ダカール・ラリーでは1-2フィニッシュを果たしたうえに、スペアパーツを満載したバックアップカーも5位に入賞。同じ年のルマンでも959はグループCポルシェに続く総合7位という成績を残している。



いっぽうで相対的にシンプルな構造を持つF40は、いかにもレーシングカー然としていながらも、実際のレースには投入されなかった。プライベートチームが米国のIMSAシリーズや欧州でのBPR GT選手権などにF40を出場させただけ、ル・マンにも参戦したがマクラーレンF1GTRには敵わなかった。

今日、"モダンクラシックカー"として、ずっと数が多いF40が、より洗練されたうえにレースでの実績を持ち、しかも希少なポルシェ959よりもはるかに値段が高いのはいったいなぜなのか? 友人のアメリカ人たちはこういう時はいつも「理解できないね」と言って肩をすくめて見せる。

そんな事情を脇に置いて、実際に二台のステアリングを握ってみよう。スイス在住のサイモン・キッドストーンは苦労してこの完璧な1990年式F40を手に入れた。彼の車は触媒付きエグゾーストも車高調整機構も備わらない珍しい初期型で、走行距離もわずか1万1000マイル強である。 

私個人はこのピニンファリーナ・スタイルにそれほどの魅力を感じないが、好戦的な存在感を否定することはできない。鋭く尖ったノーズと高く聳えるリアウィングはロードレーサーそのものだ。2936㏄V8エンジンは288GTOの進化版であり、日本のIHI製水冷ツインターボチャージャーの助けを借りて478bhp/7000rpmを生み出す強力なパワーユニットはプラスチックのエンジンカバーを通じて見ることができる。やる気満々である。

編集翻訳:高平 高輝 Transcreation:Koki TAKAHIRA Words:Robert Coucher 

無料メールマガジン登録   人気の記事や編集部おすすめ記事を配信         
登録することで、会員規約に同意したものとみなされます。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

RANKING人気の記事