ピカピカのクラシックカーをあえて汚くする!?│デストレーションを探る

Photography:Mark Dixon

もしコンクールを総なめにしたら、次にあなたはどうするか?ドン・ローズという人物の場合、アストンマーティンをあえて汚く見せるようにした。見かけはラフでも中身はグレート、これがデストレーションの心髄なのである。

「どこまで行ったら終わりにする?」ドン・ローズはエンジンを吹かしながらこう言った。ドンと私はカリフォルニアの海岸線を彼のDB2/4 MkIIで突っ走っていた。見た目は明らかにポンコツの車だ。問題が起きて当たり前という感じ。アルミの地肌そのもの、よくて下塗り施工というスチールパネルには、60年来の傷がそこいらじゅうに付いている。

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しかしエンジン音を
聞けばそんな印象は一変。むしろ完璧に近いくらいスムーズな回りかたで、聞こえてくるノイズといったらキャブレターがガソリンを飲み込む音と2本のエグゾーストパイプが発する排気音くらいなものだ。車から降りてからボンネットを開け、さらに車の下にもぐって目を凝らすと、エンジンとその周囲、駆動系はコンクールウィナーのようにピカピカだった。外観とのこの落差はどうしたものか、私はただ驚くばかりだった。

「車で飯を食ってる立場として、ショーというショーは全部行っているからね」とドン。「そんなコンクール出品車ばかり見ていると感覚が麻痺しちゃうんだよ。そんな中でDB2/4はまあまあの車だった。コンクールレベルのアストンには全然興味がなかったから、むしろありのままの姿を見せるこの車に惹かれてね、それで買ったんだ。ボディはそのままにして機械部分だけいじろうと思ってね。どうやるかというプランは頭の中でどんどんふくらんでいったよ」

ドンが"デストア"と呼ぶそのプランでは最初に錆を落とすことはしない。ヒストリック・レーシングカーならどんな車よりも先に求められる工程だと思うのだが、なぜなのだろうか。ドンがボディに手を付けなかったのには、実はわけがある。スプレイを使ってきれいに全塗装するより大事な理由がそこにはあった。それはこのDB2/4があるべき姿に仕上げるためのディテールの確保だ。この車には楽しくなるような小さなバッジもあればステッカーもある。ルーフライトやエナメルが黒く煤けたようなワイアホイール、ラリーに参加したときのルーフ上の記念文字"Press on regardless"など、この車を語るべき物語がたくさんあるのだ。Press on regardlessとは1949年から始まった24 時間耐久ラリーで、そもそもは"make-believe race team"がスローガンとして使っていたフレーズだが、それに敬意を表してドンは自分の所有する車すべてに描き込んでいるのだ。



ところでなぜこのDBはこんな姿になってしまったのだろうか。ドンが所有する前のオーナーが時間のなさを理由に、塗装の程度を悪くさせたというのが理由らしいが、そのあとの処理も悪かった。前オーナーは一念発起して自己流レストアを敢行した。

まず手始めにペイントの皮むきを実行、そしてボディの修理も始めた。作業途中、長方形のインジケーターがフロントフェンダーの中に落ちてしまい、取れないので丸形のもので間に合わせた。アルミのボンネットには電気腐食で孔が空いてしまったためメタルの槍のようなトリムをリベット留めした。こんな具合だ。さすがにドンもこれは我慢できず、片側をカットして新しいアルミで溶接しなおしたが、それだけでも簡単な作業ではなかったそうだ。しかし作業はそこまで。1週間ぶっ続けで開催される2003年のSo-Cal TTラリーが目前に迫っていたのだ。その後も作業が進められることはないまま時は流れた。 

編集翻訳:尾澤英彦 Transcreation:Hidehiko OZAWA Words:David Lillywhite 

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