ル・マン参戦のために設計されたアストンマーティンが公道用に仕立て直される?

Photography:Gus Gregory



そして今回紹介するのが、シャシーナンバー"119"のDB3Sクーペである。兄弟車と同じく1955年に製作されたが、車両登録されたのは翌56 年の8 月24 日、RD ロプナーが最初のオーナーとなる4日前だった。ボディカラーはバトルシップ・グレイで、内装は赤。唯一のオプション装備だったエイボンのレースタイヤも含め、車両価格はオープン仕様より1116ポンド高い3207ポンド、これに1605ポンドの物品税がついた。

の"119"はその後、キース・シュレンバーグ、ナイジェル・ドウズ、ジム・フリーマン、ヴィクター・ゴーントレットなど、複数のオーナーの間を転々とした。ゴーントレットの後、1991年の半ばからはサイモン・ドレイパーが所有していた。2000年代のはじめ、"113"がオープンボディに改造されたため、残る2台のクーペはいっそう貴重な存在となり、これまで製作された市販仕様のアストンマーティンの中でも最も人気の高いものとなっている。

現在のオーナーは2009年後半に、サイモンから最初の登録ナンバーである"3HMY"のまま入手した。その後、アストンマーティンのスペシャリストであるレックス・J・ウッドゲイトにより、5年に及ぶ徹底的なレストアが実施された。ボディは、オリジナルの外皮の下側がひどい状態にあったため、ASRモーターボディ・エンジニアリングによって新しいものが製作された。

ボディがバトルシップ・グレイに塗られる一方、内装は鮮やかな赤に仕立てられた。エンジンとギアボックスもRSウィリアムズによってリビルトが行われ、これを再び搭載して公道でのテストを経た後、アルプス山中にあるオーナーの隠れ家へと運ばれた。我々がこの車に出会ったのも、その隠れ家でである。

ウッドリムを持つ合金製のステアリングホイールを前に、快適なバケットシートに身を沈めると、まず感じるのは、大きな広角のウィンドスクリーンと、ゴシック・スタイルの盛り上がったフロントフェンダーによってもたらされる素晴らしい前方視界である。やはり大きなスクリーンによってもたらされる後方視界もほぼ同様だ。コクピットは狭いが、コンパクトで心地よい。ただ、身長が6フィート(180㎝)以上の人間にはヘッドルームが限られる。

内装は粗野なレー
シングカーと異なり、前後のピラーまでレザーで美しく飾り立てられ、床とラゲッジスペースも厚いカーペットで覆われている。サイドウィンドウと三角窓は愛らしく、その間のピラーや助手席のロック、ドアハンドルやフロントフェンダー上の飾りなどはすべてクロームメッキが施され、アストンマーティンの伝統的な職人気質を現している。



ダッシュボード上にはスイッチやダイヤルがこぎれいに並び、160mphまでのスピードメーターと、6000rpmがリミットのタコメーターが備わっている。後者は重要な5000~6000rpmの回転域(ただしシフトポイントの5600~5700rpmを示すレッドラインはない)が最も見やすいように配置されている。

RSウィリアムズが組み立てた新品のエンジンは、一旦暖まれば2000rpmから車体を力強く引っ張り、5500rpmで211bhpを発生する。ウェバーのトリプル・チョーク・キャブレターはスロットルの操作に瞬時に反応し、『オートスポーツ』誌のジョン・ボルスターは0-60mphで6.6秒という印象的なタイムを記録した。

SS4分の1マイルは14.4秒。車重は2200ポンド(998㎏)と、
オープン仕様より238ポンド重いが、最高速は140mphをマークし、ドライバー側のドアの下を通る2本の排気管からはサイドウィンドウ(凸凹のきつい路面では軋み音を生じるが)を通して素晴らしいエグゾーストノートが伝わってくる。

編集翻訳:工藤 勉 Transcreation:Tsutomu KUDOH Words:Paul Chudecki 

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