改造クラシックカーの域を超えた実力をサーキットで試す!

Photography:Paul Harmer



DB4は内側も外側も隅々まで美しく仕上げられ、往時の風格がにじみ出ていた。余分な物をすべて取り去った室内は、一体型のロールケージとケブラーフレームのバケットシートが目立つ。アストンの伝統的な形のダッシュボードには巨大な回転計が据えられ、他に油温/油圧、水温、燃料圧計が並んでいる。スイッチ類は最小限であり、80リッタータンク用の燃料ポンプ、イグニッション、プッシュ式スターター、ライトとワイパースイッチぐらい、加えてデジタルの速度計が取り付けられている。

クラッチペダルは重すぎるほどではないが、スムーズに発進するには回転を高めに保つ必要がある。セカンドギアで加速しながら、シルバーストンのナショナル・サーキットに出ると、DB4はリアを沈めたパワフルな後輪駆動レースカーらしい姿勢でみるみる速度を増して行く。ヒューランドのストレートカットギアボックスは、正確で電光石火のシフトが可能、そのギアの唸りとウェバーの息遣い、排気音が混じり合って何とも魅力的なサウンドが聞こえる。活気あふれるツインカム6気筒のフラットなトルクカーブのおかげで切れ目のない加速が続く。力強いトルクは7000rpmのリミットまで落ち込むことはない(3500rpmでは323lb-ft、6700rpmでは319lb-ftという)。



ひとしきり雨が降った後、霧雨が依然として降り続いていたせいで、路面はとても滑りやすかった。さらに表面のラバーが洗い流されたうえに、その日サーキットを走るのは我々が最初だったので、乾いたラインはどこにも見当たらなかった。それにもかかわらず、ビクビクとリアはむずかってはいたが、16×6のワイヤホイールに225・50サイズのトーヨーラジアルを履いたライトウェイトのグリップレベルは十分に高かった。かつて試したことのあるダンロップのクロスプライ・レースタイヤを履いた同様の車よりもさらに高い。実際に滑り出す際にはトーヨーはやや唐突な印象だが、それでもカウンターステアをわずかに当てることで十分にコントロールできる。

マゴッツ※の直前でスロットルを戻し、きつい右コーナーのベケッツに向けてブレーキングの姿勢を整える。そこから3速で加速するが(ドライのレースでは2速)、それはウェリントン・ストレート(元のクラブ前)に向かいながら、どれだけテールスライドするか様子を見てコントロールしなければならない。

雨混じりの風が激しく車を揺するので最初はLSDに何か問題があるのかと心配になったが、実際はDB4の直進性に問題はなかった。400bhp/トン以上のパワーを解放すると、ほとんど130mph(209㎞/h)に達した。

コンディションを考えて、ブルックランズ・コーナーへの進入では無理をせず、右ヘアピンのルッフィールドで2速に落とす。フロントヘビーにもかかわらず、アンダーステアは驚くほど小さい。そこからテールが外に流れ出すのを感じながら徐々にフルスロットルを与える。右コーナーのウッドコートでは水が溜まったコースの端に寄り過ぎないよう早めに3速からトップにシフトアップすると、ナショナル・サーキットのスタート/フィニッシュ・ラインである。ブレーキをわずかに踏んで高速右コーナーのコプスに4速のまま進入、ライトウェイトの優れたシャシーにはまだまだ余裕があることがはっきりと感じ取れた。

とても理想的とは言えないこんな悪コンディションの下でも、恐ろしくパワフルなアストン・レースカーはドライバーに自信を与えてくれる。それは素晴らしいシャシー性能だけでなく、非常に強力でフェードの兆しすら見せないブレーキのおかげでもある。要するに操ることがものすごく楽しいのだ。

しかしな
がら、ライトウェイト・バージョンを製作するのは昔も今も非常に高くつく。DB4そのものの値段が上がっている現状では、これ以上レースカーが製作されることはなさそうだ。実際、既に2台が大金を投じてロードバージョンに戻されたという。いっぽうで、このような特別製レースカーは、より多くのレースシリーズに参加を求められており、近年では、しまい込まれていたライトウェイトの何台かがレースに復帰している。

もっとも、コナー自身は最近FIAルール適合のセミ・ライトウェイトEタイプを手に入れたばかりなので、今後は別のレースに参加することになる。気が進まないとしても彼は美しく、とんでもなく速いDB4ライトウェイトを手放すことになるだろう。もし、アストンマーティンの実力とレースの魅力に惹かれるかたがいるとするならば、この「ライトウェイト」はぜひ考慮すべき一台である。

編集翻訳:高平 高輝 Transcreation:Koki TAKAHIRA Words:Paul Chudecki 

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