車と恋に落ちてもらうために│クラシックカーを「ドライブ」することの愉しみを

Photography:Gus Gregory



「私たちは車両を購入するとき、部分的なレストアで済むのかフルレストアが必要なのかをまず見定めます。中には最良の状態で保管されていたDBS のようにとても状態のよいものもあります。いっぽうで錆があってもそれはそれでひとつの価値と認めるお客様もいらっしゃいます。いずれにしても完全に動く状態にするということは前提です。ひとついい例があります。がたがたの状態にあったDB6を完璧にレストアしたことがあります。作業にかかる前、スタッフの間で意見が分かれました。作業すべきか断念すべきか。私はその車を見てどれだけ時間がかかるかは問題ではないと思いました。こうした老朽化した車が復元作業を通じて私たちに何を残してくれるのか、新車からは得られない何か、あるいは私たちの内に芽生えるプライド、満足感、そういったものが大事だと思ったんです」

「私たちはストックした車を販売するほかに、お客様に代わって販売のお手伝いもします。そういうとき、車を売りたい人と引き取り価格の点で言い争いになることもあります。たいていは個人売買で取引する価格よりもいい値は出ないからです。私たちは扱っている車に対して常に透明性を保ちたいと思っています。それは買い手に車がいまどういう状態にあるかをきちんと説明し、コストもそれを反映させた適正なものにしたいからです。そうしたことをきちんとやっていると口コミで広がり、いまの私たちの評価につながっているのだと思います。私たちがやっているようなビジネスは信用と品質なくしてありえません。一朝一夕にできるものでもありません。でも、その目的は車両提供者に満足してもらい、買い手に最良の状態の車を少しでも安い価格で提供することにあります」
 
では遠隔地でやることの理由は何だろう。ゲイドンより北にアストンマーティンが根づいたことはこれまでないし、多くの偉大なスペシャリストが国土の南半分に本拠を置いているというのは誰もが認めるところである。ロンドン近郊やサウスイーストには富裕層が多く、お金があるところで商売をしたほうがやりやすいとは誰もが思うこと。しかしクライヴの話によればそんなことはないという。

「新しいマーケットが立ち上がるのはインターネットのおかげです。このビジネスももっと国際的になっていくでしょう。実際私たちもすでに世界を相手にしていますし。想定外でしょうが、ここビーミッシュで事業していても、私たちの主な取引先はヨーロッパです。何の問題も起きていません。必要があればニューカッスル空港を利用してお互い行き来も容易ですし、実際たまに利用するからわかるんですが、長距離フライトでも乗り継ぎ時間は他の空路と変わりません。私たちにとってはロンドン中心部や他の大都会を経由しなくてよいのはとても楽ですし、ここに来る人にとってもこの地方の素晴らしい道路で車を試せるいい機会になります」
 


私はさらに中を歩き回ったが、建物の中を細かく見れば見るほどスケールの大きさと技術レベルの高さが伝わってくる。クライヴの前職はプロのフォトグラファーだというが、そうした経験はワークショップのブランド力を高めるのに役立ったというし、アストンマーティンの販売やレストア事業の面で世界的に競争が激しさを増すなか、どんどん頭角を現わしているという説明も、あながち嘘とは思えなかった。クライヴにとってさらなる成功の鍵となるのは古いものと新しい手法をうまく組み合わせることだろう。

「私たちはほかのアストン・スペシャリストたちと一線を画するべ
く、外観に関してはとくに気合いを入れて仕上げた車を市場に送り出しています。私たちはインターネットを利用して世界を広げています。もちろん継続して更新はしていますが、自身のサイトだけでなく私たちの車を扱ってくれる他のサイトにもお金を払って協力してもらっています」

「ボブ(ファウンテン)は年月をかけてコンタクトづくりに労力を
費やしてきました。ときには国際ラリーに参戦したりして。人と会って人間関係を作り上げるのは重要なことですけれども、それ以上に重要なのは自分自身をアピールすることなんです。そうした上で友好関係が構築できたら最高ですね。いまやウェブサイトと宣伝活動は欠くことのできないものですが、実際に口でしゃべる言葉はこれからも色あせることのないマーケティングツールであり続けるでしょう」

「同時に私たちのサービスをよく知ってもらうために印刷物もたくさん制作しています。そこには私たちならではのビジネスへの取り組み方を記載しています。サプライヤーや顧客が楽しんで読めるよう凝ったデザインで作っています。高級なカレンダーや贅沢なつくりの小冊子、パーツカタログやパンフレットです。パンフレットには、レストア事業から通常の整備、事故の修復など、私たちが対応できる範囲のものをきちんと載せています。レストアのご依頼をいただいたお客様向けにはレストアの工程をすべて記入した詳細な完了報告書をお渡しします。単なる書類ではなく、誰に見せても自慢のできる素晴らしい記録書ですよ」

編集翻訳:尾澤英彦 Transcreation:Hidehiko OZAWA Words:Richard Meaden

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