自動車の歴史の中で最も尊敬に値するエンジン│ポルシェフラットシックス

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タイプ901が企画されたとき、空冷が前提とされたことは疑う余地がない。シリンダーをオイルで冷やす実験も短期間なされたが、採用されることはなかった。リアホイールの後ろにエンジンを置くという概念と同じくらい、ポルシェにとって空冷は当たり前のことだったからだ。
 
冷却の手段は、シリンダーの冷却フィンとエンジンのてっぺんでブンブン回る大型のファンがすべてだが、四方にまき散らすファンの音は911のサウンドを特徴づけるものでもある。金属的なヒューという音はスピードが上がるにつれて犬の遠吠えに近いものとなり、最後は官能の声にも似る。その昂ぶる声はこれまで多くのライターが絶賛してきたとおりだ。後期の911でも同じような声を聞かせてはくれるが、機械的な成分に欠けており、聴覚上刺激のないクレバーでやさしいノイズとなっているのは、人によっては物足りないかも知れない。
 
ポルシェ・フラットシックスエンジンに水冷という概念が生まれたのはそれから30年後のことだ。まずレーシングカーのシリンダーヘッドに水冷システムを導入した。959への導入がそれだが、水で冷やすのはヘッドだけで、クランクケースは空冷というハイブリッドな方法でスタートした。
 
空冷エンジンには2つの問題点があった。騒音の問題と排気成分の問題。後者ではとくに空冷エンジンのシリンダー温度が高いときに発生する窒素酸化物がやっかいな代物だった。さらに、すべてのシリンダーが均等に冷やされないという冷却上の問題と、室内で充分な暖房が得られないという別の問題にも悩まされた。1996年に発表されたスポーツカー、ボクスターの新しいエンジンにはポルシェの量産車で初めて水冷が採用されたが、それは次世代の911(996のこと)がより大きな水冷エンジンを積むことを事前発表しているようなものだった。
 
ではオリジナルのメッツガー・エンジンは終わってしまうのか?水冷になるのと同時にバルブがシリンダー当たり4本となり、カムシャフトも4本に、またその駆動もまったく異なる方式が採用されるなどさまざまな新機構が投入されたことからすれば、新しいエンジンに完全に置き換わったと見て当然である。

しかし、ターボとレース向けに作られたGT2やGT3には依然としてメッツガーの流れを汲む空冷エンジンが載せられていた。しかしそれも1998年までだった。そう、2000年モデルのGT3は水冷エンジンとなるが、その成り立ちは、古いタイプのクランクケースに水冷のブロックとヘッドを組み合わせたものだった。これらのエンジンとフルレース仕様のエンジンはポルシェ・レース部門が最良と考えるメッツガー由来のものだったからだ。それらはメッツガーへの畏敬の念を表わしたものだが、それもやがて消え去るときが来る。


編集翻訳:尾澤英彦 Transcreation:Hidehiko OZAWA Words:John Simister

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