自動車の歴史の中で最も尊敬に値するエンジン│ポルシェフラットシックス

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フラットシックスエンジンへ向けての最後の変更は2008年になされた。評判のよくなかったティプトロニックのトルクコンバーター式オートマチックに代えてダブルクラッチ付きギアボックスのPDKがオプションとして用意されたことに伴うものだった。エンジンにおいてはドライバビリティーを大きく改善したダイレクトイグニッションを得たことが最大の変化である。

それがもたらす効果は、圧縮比をより高められたこと(この場合12.5:1)のほかに、通常の直接噴射では圧縮行程の頂点で燃料を噴射するだけだが、ここではより大きなパワーが求められたときに吸入行程で噴射量を増やすことも可能にした。もうひとつ、インターミディエートシャフトが廃止されたことも大きな変化だ。ポルシェはこれをやめるとき、駆動する距離が遠くなってもより速いスピードで回せるチェーン技術を擁していたが、それ以上にクランクシャフトがダイレクトにカムシャフトを回せるようになったメリットのほうが大きい。

軽く、コンパクトで可動パーツも少ないエンジンが可能となるからだ。とくにパーツの削減に関しては専用のオイルポンプが不要となるし、その動力をセーブする電子制御もいらないなどメリットは多岐に亘る。なにしろコーナリングGが高いときにはドライサンプではオイル切れにならないような配慮までしなければならないのだから。


インターミディエートシャフトがなくなったことの最大のメリットは、911オーナーがシャフトベアリング破損という悪夢に絶えず取り憑かれていたことから解放されたことにある。初期の911ではタイミングチェーンのテンショナーが故障するという問題を抱えており、2度の設計変更により信頼できる油圧システムに辿り着いたが、M96の最大の弱点たるインターミディエートシャフト問題はそれとはくらべものにならないほど影響甚大だったのである。わかりやすく言おう。封入されたベアリングが潤滑されない状態になってシャフトが回転できなくなるとどうなるか。ご想像のとおり、被害はエンジン全体に及ぶことになり、それはどんなときにも起こりえるという恐ろしいものだ。ポルシェは対策として改良パーツの投入で問題を封じ込めようとしたが、完全に問題解決するには至らなかったのだ。
 
直噴エンジンはターボやGT2まで含めて広く搭載された結果、非直噴エンジンを積む最後のモデルは997GT3となった。ややこしいが新しい475bhpのGT3は直噴を積むことになり、これですべての911は直噴でまとまった。直噴エンジンが発揮するパワーは1963年のデビュー時からすると想像もつかない大きさで、それに乗じて燃料消費量がふえたという報告を聞かないのも驚きに値するだろう。

編集翻訳:尾澤英彦 Transcreation:Hidehiko OZAWA Words:John Simister

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