受け継がれる職人の想い│アストンマーティンDB4 GT再生産の方法は?

Photography:Mark Dixon/ASTON MARTIN

再生産されるDB4 GT。その手法とはいかなるものだろうか。使用されるパーツは最新のもののようだが、60年前のニューポート・パグネルではなしえなかった寸法精度を得たことが自慢である。

新しいDB4 GTは今日的手法で生産される。たとえば、ガラスを貼る部門などは空間を密閉したうえに内部を加圧してチリひとつ入らないよう、細かいところまで配慮された製造方法を採っている。だが、シャシーやボディパネルといった細かい組み立てを要しない部分は他のアストンと同様にレストア工場にて行われる。

「ここにあるのは2号車です」そう語るのは宣伝部門のポール・スピアーズだ。ほぼ完成状態にあるが、まだペイントされていない公道モデルのGTだ。「私たちのやりかたはメカニカルパーツを全部装着してから塗装するのです。塗装によるダメージを最小限にとどめるためです」


 
ただし、シャシー、スーパーレッジェーラのボディフレーム、インナーフレームはすでに黒く塗ったうえに、eコートと呼ばれる腐食防止のパウダーコートで表面を仕上げる。すぐそばにあった6号車は秘密事項が露わの状態だ。

「こちらにあるのはすべてライトウェイトです」ポールはオリジナルからどれだけ重量を削いで軽くしていくか説明してくれた。「まずフットウェルをアルミ製とし、シルやそれにつながるクロスメンバーには軽め孔を開け、スチールの閉断面パネルの何枚か、たとえばフェンダー内側のパネルなどは下部をカットしています。バルクヘッドは前後ともアルミで作りますが、リアのホイールハウスには厚手のスチールを使用しています。でも仕上げは製造方法の進化によってオリジナルよりすっきりと仕上がっています」

「重量の増加が抑えられたのも、製造機械の質の向上、高品質の素材を使用したことで実現しました。DB4の通常モデルのシャシーを人の手で持ち上げようとすると4人がかりだったのですが、この軽量モデルならふたりで大丈夫です」
 
最新の技術は車の寿命を延ばすことにもひと役買っている。細かい部分だが、アルミの端がスチールと接触する部分があると、テープを貼って直接触れないようにしている。電解腐食を防止するためだ。「我々もこの車には100年生きてほしいと願っています」とはポールの弁だ。
 
主要なパネルは新しいプレス機で成型するのだが、肝腎の形態は何台かのオリジナルDB4 GTを分解して型どりしたもの。ボディは治具上で溶接バイトされ、工程終了後に初めて完成した姿が見られる。各パネルはハンドメイドのオリジナルと同じ場所に正確に接合される。1箇所1箇所を正確に溶接すれば、最終的にオリジナルと同じ形に仕上がるというわけだ。

「あの時代はすべての接合が溶接する職人の腕にかかっていました。けれど今はすべての溶接を一度でできるようになったのです。このモデルでもその手法を使っています」
 
次はパネルの工房だ。3号車のシャシーに職人がアルミパネルを取り付けようとしていた。必要とあらば、1週間休みなく朝6時から夜9時まで働く超多忙なセクションである。パネル貼りはまずドアから始めるのだそうだ。それからフロント・フェンダーの位置を決め、スカットル、ノーズのアッセンブリー、リアクォーターへと微妙に調整しながら合わせていく。たしかに、パネルのギャップ調整は微妙で、金型から出たままのパネルが適合するわけがない。

「最上の形を得るために、プレス機の段階で4、5回プレスする必要があるのです。アルミの復元力を想定して最終的にこうしたいという形よりわずかに強く曲げるわけですが、こういうところもCADで織り込み済みです」
 
これは航空機産業で使われる手法だが、現在アルミニウムを使った車はさらに上を行っていて、熱と高圧を利用するスーパーフォーム工法でパネルを成型することもすでに実用化されている。その手法を採用するとアルミが硬くなるため作業性は悪くなるが、このGTには合っている。なぜなら、めくれ上がったり、先端をつぶしたような複雑な形状がたくさんあるからだ。

4号車はパネル・フィットにちょうど取りかかるところだった。そこで発見したのは、エンジンフード上の吸入口が、オリジナルでは薄いスチールの板とチューブからできていたが、新生DB4 GTではCADデザインによりアルミ板で同じ形状を作っていたことだ。また、シールが必要とされるところはすべて黒いポリウレタンが使われており、1960年当時の車と比べると格段に質の向上が図られていることもわかった。

編集翻訳:尾澤英彦 Transcreation:Hidehiko OZAWA Words:John Simister 

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