フェラーリ250GTOより貴重なアストンマーティン│ボンネットの下の秘密

Photography:Gus Gregory


 
この不思議なDBに乗りたくてうずうずしていたことを認めないわけにはいかない。一時は黒とシルバーにペイントされていたこの車はアストンマーティン・ワークスでオリジナル・カラーに塗り直されたばかり、さらにすべての部分が本来あるべき姿に整えられていた。私にとってありがたかったのは、エンジンは完全にリビルトされてはいなかったことだ。それゆえに、無論慎重にではあるが、それほど恐れおののく必要はなかった。 

ぜひとも運転してみたかった理由は、DB4用のパワーユニットがDB2/4のシャシーにどのような結果をもたらすかを確認したかったからである。1950年代を通じてアストンマーティンのエンジンパワーの増加は実に目覚ましいものだった。

当初、スタンダードの2.6リッターDB2エンジンの最高出力は105bhpだったが、1956年にはMkⅡ2/4に積まれていた3リッターユニットは140bhpを発生、さらには165bhpを生み出す圧縮比の高い「スペシャルシリーズ」エンジンも用意されていた。そして1959年のDB4に搭載された3.7リッターエンジンに至っては240bhpの大パワーを誇ると発表されていたのである。源流をたどれば第二次大戦前に開発が始まったア
トム・プロトタイプに行き着くシャシーに、この3.7リッターエンジンを載せたらいったいどんな風に感じるのだろうか?


 
100bhpもパワーアップしたエンジンに対応するためと思われる唯一の改造点は、フロントブレーキである。ディスクブレーキはDB2/4MkⅢの初期モデルにオプション設定され、その後標準装備となったが、MkⅡの時代はフロントもドラムブレーキのままだった。フロントにはダンロップのディスクブレーキ、後輪にアルフィン・ドラムという現状の組み合わせは私にとって実に歓迎すべきものである。インテリアはベークライトのステアリングホイールなどを含めあらゆる部分がオリジナルスペックに仕立てられており、この車の特別な秘密をうかがわせるものはなにもない。ただし、エンジンを始動する際に小さなボタンを押すと一時的に燃料計の針がオイルレベルを示す当時の機構は動いていないようだった。
 
しかしながらひとたびエンジンを始動させれば、オールアルミエンジンのより深く豊かなサウンドの違いは明らかだ。私の人生の大きな失敗のひとつは何年か前にMkⅢを売ってしまったことだが、あのエンジンの惚れ惚れするような音はいまだに昨日のことのように思い出すことができる。だがこのエンジンはもっとスムーズで複雑でまろやかに回る。クラッチには若干のジャダーが感じられたが、MkⅡは問題なく動き出した。組み合わされたギアボックスもDB4用で私の古いMkⅢより重いようだったが、ドライブトレーンは申し分なくしっかりしており、力を入れることなくスムーズにシフトすることができた。

編集翻訳:高平高輝 Transcreation:Koki TAKAHIRA Words:Andrew Frankel 

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