強烈なスタイリングのモンスター│モータースポーツヒストリーに名を残すマシン

Photographs:Porsche Museum


 
さらなる改良が加えられたことで、917は71年のチャンピオンシップにおいて前年以上に無敵の存在となり、開幕から順当に勝ち星を積み重ねた。そして1年ぶりのル・マンを迎えた時点では、917は押しも押されもせぬ優勝候補の一番手に挙げられていた。
 
この年の24時間レースにも、ル・マン専用に開発された917LHが投入された。前年は熟成不足を嫌って917Kで出場したジョン・ワイアのチームも、この年は改良が加えられた917LHを2台出場させ、ベルもその1台のステアリングを握った。
 
レース前、ル・マンが開催されるサルテ・サーキットにおいて917LHはさらなるテストが行われ、素晴らしい成果を得た。といっても、そのテストの過程は決して安全なものではなかった。ベルはこう回想する。

「あの日のことはよく覚えている。特にエンジニアのノルベルト・ジンガーと交わした会話はね。彼は私に、ミュルザンヌのストレートエンドにおけるエンジンの回転数をたずねた。8100rpmだったと私が答えると、彼は『それはよかった。だってエンジンは8200rpmでブローしてしまうから』と言った。彼はそれから計算尺を取り出してその時の速度を計算し始めた。そして計算が終わると、彼は『たぶん君は知らないほうがいいんじゃないかな』と話した。計算の結果は246mph(396km/h)だったと言うんだ!」
 
この年の24時間レースには917LHが3台出場したが、実際に優勝したのは917LHではなく、ヘルムート・マルコとガイス・ファン・レネップのコンビがステアリングを握った、マルティーニ・カラーに塗られた917Kだった。彼らが24時間で走破した距離は3315.2マイル(5335.3km)。これはそれまでの記録を更新する新記録であり、しかも40年以上を経た今も破られていない。
 


この71年シーズンが、917にとって最後のチャンピオンシップとなった。レギュレーションが変更され、翌72年から917やフェラーリ512のような5リッタークラスのマシンは出場できなくなったのである。それはある意味、917の短くも栄光に彩られたレース歴にふさわしい終わり方ともいえた。ただ、そのレース歴には"ヨーロッパにおける"と断わりを入れる必要があるだろう。ターボチャージャーを装着した917が72年からアメリカのCan-Amシリーズに挑戦して、大きな成功を収めたのだから。
 
1970年に917で念願の初勝利を挙げたあとも、ポルシェはル・マンにおいて勝利を重ねていった。その結果、通算の勝ち星は16にまで達し、これはいうまでもなく、ル・マンにおけるメーカーとしての最多勝記録として燦然と輝いている。

編集翻訳:檜垣和夫 Transcreation:Kazuo HIGAKI Words:Roger Green 

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