砂漠を制覇したポルシェ ダカール959を公道で運転する!?

Photography:Malcolm Griffiths & McKlein


 
なんとか車検を取得したリチャードによれば、ラリーを走っていた頃より車高は大幅に低いものの、マッド&スノーのダンロップタイヤの乗り心地はあまり良くないという。ただ、リアデフをロックしてわざと不安定にしなければ、単純なアンダーステア特性だと教えてくれた。その言葉がいかに正しいかをお伝えしたいところだが、それより何より、私は本物のダカール959を運転できることがとにかく素直にうれしい。
 
目の前にある959は、小さく、少し高さはあるが、明らかに911がベースだ。ドライバーズシートの目の前には、標準仕様そのままの911SCのステアリング、そして背後からはフラット6のサウンドが響いてくる。奇妙な話だが、アイドリングにかぶって、まぎれもなくVWフラット4のバタバタいう音が聞こえてくるようにも思える。それはまるで、自信のない911オーナーを怒らせるために言うセリフじゃないかと言われそうだが、本当なのだ。
 
そして、付け加えることがある。このエンジンは、高回転まで引っ張ると、これまでに聞いたフラット6の中でも最高の轟音を上げる。複雑で深みがあり、しわがれているがスムーズ。音量もトップクラス。さきほど、リチャードがバンブリーの車検場まで運転していくのを見送りながら、私たちは作業場の外に立って、かなり長い間そのサウンドに耳を傾けていた。
 
驚いたのは、ステアリングにパワーアシストがないことだ。駐車場内を走るような速度だと、ステアリング操作はかなり重め。これは複雑なシステムによる重量増を嫌ったためと、オリジナルの3.2リッターエンジンに負荷を掛けたくなかった(お粗末なアフリカの燃料でデチューンもされていた)からなのだろう。もちろんエアコンもないし、暖房すら用意されていないので、雨の中、市街地で渋滞にはまると、車内はすっかり曇ってしまう。
 
ただ、いったん走り出せば、ステアリングはちょうど良い重さに変わり、いかにも911らしい落ち着いた貫禄を見せてくれる。しっかりとしたスタビリティの感触は頼もしいが、5000rpm以下では特別速く走れるわけではない。カーボン-ケブラーによって車重は約1250㎏に抑えられ、スプリントスタイルのギア設定にも関わらず、だ。
 
1速はまるでヒルクライム専用。2速と3速の感覚も短く、4速はまだ3速のような感じ。だが、トップギアに上げると、回転が明らかに落ちるものの、高速道路をクルーズする程度の速度で、タコメーターは5000rpmを指し続ける。400bhpのダカール959はギアを約130mph(210km/h)に合わせて設定していたらしいが、このエンジンでは120mphくらいなものだろう。


 
言うまでもないことだが、ダカールカーを公道で運転しても、その能力は測れない。サラブレッドに荷馬車をひかせても実力が分からないのと同じだ。4輪とも195/70 R16の分厚いタイヤなので、冬の滑りやすい路面でコーナリングしても適度なグリップがあるし、少し思い切ったコーナリングスピードでもノーズは出口を見据える。たとえリアデフをロックしてみなくても、確かな腕を持つドライバーなら、積極的にコントロールできることは想像に難くない。
 
いまだに私には、ほぼ1カ月間もステアリングホイールを握り続けて、7500マイル(約1万2000km)に及ぶ、轍のついた悪路や砂漠を、ものすごいスピードで走り抜こうという考え自体が、理解できない。
 
本物のダカール959と過ごした1日を思い返し、かつて見たあの姿――火星のような殺伐とした風景の中を、力強く登ってゆくポルシェ959の姿は、1986年に見たときとまるで変わらず、私の心をとらえて離さない。

編集翻訳:堀江 史朗 Transcreation:Shiro HORIE 原文翻訳:木下 恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:John Barker 

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